Orgy way

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<<   作成日時 : 2007/02/10 00:00   >>

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注:この作品は原作と異なる人間関係が成立しています。

<ご注意>
原作と違った展開を前提とした作品です。野暮ですいませんが前提ばなしを書いておきます。
・笹荻成立の少しあと、いろいろあって斑目は咲さんと恋人同士になりました。
・そしてそれから幾星霜。彼らは結婚し、息子と娘を授かっております。
ご面倒おかけしてすいません。では参ります。





「おっ」

 俺が咲人の……息子の姿を見かけたのは、いつもの仕事の帰り道だった。

 彼が中学に入ってから徒歩の通勤径路を少しだけ遠回りにして1年ちょっと。学校のグラウンドをかすめるように歩きながら、サッカー部の練習が延長していないかと目を凝らすのにもすっかり慣れていた。
 今日は練習も終わり、着替えた生徒たちが部室から校門へ途切れとぎれの線を形作っている。咲人もまた詰襟の上着のボタンを全部開けて、男女一人づつの友人と歩いているところだった。
 まだ声をかけるには少々遠い。俺は足を早めて彼らを追うことにした。
 今の暮らしになって何年だ?20年弱?妻と……咲さんと付き合うようになって、結婚して、咲人と晴実を授かって。咲さんの仕事も順調で、ここ数年は新宿で寝ぐら用に借りてるワンルームの使用頻度もそこそこ減って、八王子に対する表立った不満もなりをひそめた(それでも彼女は都心に移り住む野望を煮えたぎらせているが)。俺は俺で小さな会社でちびちび昇進して(これでも社内では課長さまだ)、40過ぎのさえないオッサンにしては必ずしも悪くない処遇を得ていると言っていいだろう。
 小学校は方向が違っていたが中学は俺の会社の近所で、去年の春からは帰宅途中に彼を探すのがちょっとした楽しみになった。俺がたまに早く上がって、彼のサッカー部の練習がたまに遅くなる時は、俺じゃなく咲さんの血を引いたに違いないアグレッシブなボールコントロールを眺めることができるというわけだ。
 俺自身歩くのが早い方ではないが、彼らの歩みは想像以上にゆっくりだった。おそらく昨日のテレビや、俺がいまだに蒐集しているのとはジャンルの違う漫画や、流行の音楽の話をしたくてしょうがなく、そのためなら帰る時刻がどうなろうと構わないのだろう。ほどなく彼らに追いつくこととなった。

「おーい、サキトぉ。今帰りか?」
「あ……とうさん」

 振り向いて俺を確認する。

「今日は早かったんだね」
「あ、斑目のおじさん、こんにちわ」

 咲人の隣で挨拶してきたのは同級生の和也くんだった。そのさらに隣でペコリと頭を下げたのは、たしか1年生のマネージャーの子だ。

「よ、カズヤくん。最近コッチはどーだい?」

 両手でゲームパッドを操作するジェスチャーをして笑いかける。サッカー以外にはあまり熱心でない咲人に比べ、彼は見どころがある。

「こないだおじさんちでヤラれた『ドラキュリーナハンター』、ついにエミュ拾いましたよ。いま特訓中っスからね、古典ゲームでも俺の実力、見せつけてやりますよ」
「マジか?おいおいオッサンの数少ない楽しみ奪わないでくれよな」

 母親の帰りの遅い我が家では、遊びに来た彼や他の友達を俺がもてなすことも少なくない。咲さんの手前、昔ほどはのめりこまないようにしているものの、小中学生相手なら漫画の話題もゲームの腕前も尊敬を勝ち取るくらいはお手のものだ。咲人の友人たちの中でも和也くんは格闘ゲームのセンスが良く、最新機種では遅れを取る俺は彼らの生まれる前のソフトを持ち出してなんとか勝ちを拾うといった相手だった。

「きみら、今日はどうするの?どっか遊びに行くんなら俺帰るけど」
「ああ、これから駅前のゲーセンに――」
「あー……カズヤごめん」

 今日の予定を聞いてみると、途中で咲人が割って入った。

「とうさん帰ってきたんならオレ、今日は帰るよ」
「えー?新しいコンボ編み出したから見せるって言ったじゃんかよー」
「ごめんな。二人で行ってきなよ」
「俺たちだけでゲーセン行ったってさ」
「隣のデパートでスイーツフェスタやってるって言ってたろ?デートしてこいよ、デ・エ・ト」
「デっ……!ばっばか俺たちそんな」

 おや。

 彼らの会話を聞いていて判った。和也くんとマネージャーの子は恋人同士なのか。

「咲人、いいのか?」

 カップル二人が赤くなって会話が途切れたので、咲人に聞いてみた。

「遊んでくればいいじゃねーか。俺先に帰ってるし」
「いーの。アレ見て判るでしょ?やってらんないって、こっちは」
「まあ……ね」
「カズヤ、そんなわけだからまた明日な。とうさん、帰ろ」
「あ、おう。それじゃな和也くん」
「ちぇー。じゃーな、サキト。おじさんもさよなら。また遊んでくださいねー」

 校門に差しかかる所で、俺と咲人は和也くんたちと別れた。俺たちはまっすぐ自宅へ、彼らは咲人の気づかいに従ったのか、駅の方へ。
 だいぶ日が長くなった晩春の夕焼けを背負って、二人で歩く。家まではほんの数分で、晴実がテレビでも見ながら兄の帰りを待っているだろう。

「さっきメールあってさ、咲さん今日はメシ作ってくれるってさ。早く帰れるみたい」
「え、マジ?やった、かあさんの料理3日ぶりだ」
「俺も嬉しいぜ、へへ」
「……とうさんてさ、かあさんのこと好きだよねー」

 まじまじとこちらを見つめて、咲人が言った。

「ぶっ?い、いきなりナニを言い出すんだオマエ」

 共働きの家で育ったせいか周囲よりオトナで、反抗期も小学校のうちに通りすぎていた息子。一緒に風呂に入らなくなって、パパママという呼び方をやめて、一人称も『オレ』にして。オタクを捨てきれない父親への反発すらもすでに過ぎ、再び親子の会話なぞもするようになった俺たちだが、思春期の彼と恋愛苦手の俺との間では色恋の話はほとんど交わしたことがなかった。
 とは言え、咲さんを好きかと問われればそれをごまかすいわれはない。

「……そりゃもー。ああ、好きさ。好きだとも」
「ウワなに?実の息子にのろけようっての?」
「ウッセ、お前が聞いてきたんじゃねーか。どうしたんだよ、和也くんたちにアテられたのか?」
「あーオッサンてヤだね、全部そっちで考えるんだから」
「見てやがれ、お前も俺みたいになるぜ」
「……うーん。アテられたかなー」

 言い合いの途中で咲人はふと、我に返ったように腕を組んだ。さっきの二人のことを思い出しているようだ。

「カズヤさ、夏目さん……あ、あの子ね。夏目さんが入部してきて一目惚れしたんだって」
「へえ」
「あいつあーいう奴でしょ、なんつーか、一直線バカ?だからもう脇で見てて丸わかりでさ。凄かったんだよ、はじめの1週間ひとっことも口きけないんだ。だから夏目さん、カズヤのこと怒らせたんじゃないかって悩んじゃって」
「うはー、若いねー」
「オレに相談すんの。でさ、オレもカズヤのことも放っておけないし、ホラだって春の試合も始まるし、コンディションやチーム内の人間関係がうまくいかないなんてダメじゃん、だからカズヤに告っちゃえって言ったんだ」

 身振り手振りを加えて、楽しそうに親友の告白話をする咲人。
 和也くんは小学校からの付き合いだ。彼とはよほどウマが合ったのか、咲人が小さなころから付き合いが途切れていない数少ない人物の一人だった。その彼に恋人ができたのがよほど嬉しいのか、延々と和也くんと夏目さんとのいきさつを話し続ける。

「練習ない日に二人で夏目さんのバス停に先回りしてさ、……ほらクラスの奴とか見つかったらまずいでしょ?……カズヤ近所の公園に待たせておいて、オレが夏目さんそこまで連れていって」

 咲人は告白のシーンは見ていないそうだ。親友の名誉のために、二人を引き合わせたあとは一人で帰宅したのだという。翌朝、教室で彼の顔を見て心底嬉しかった、と咲人は言った。

「……でね、夏目さんはまだちょっとカズヤのことわかんないでいるみたい。まだひと月くらいだからそうなのかもしれないけど、なんか……オレにいろいろ相談してくるんだよね」

 母親の社交性と父親の喋りたがりをバランス良く受け継いだ咲人は普段から口数も多い方で、仲間内でもムードメーカーになることが多いようだ。行動力もあるので(これはもちろん咲さん譲りだ)人から頼られることもしばしばだ。

「咲人、その話まだ続くのか?家着いちゃったんだけど」
「あ、ほんとだ」

 二人で帰るときは、だいたいいつもこんな言葉で会話が終了する。今のやり取りがあって、賃貸マンションのエレベーターに乗って、降りてすぐのドアを俺が開けて、咲人が先に玄関に飛びこむ。今日もそんな感じだったが、俺はちょっと思うところがあってドアノブに鍵を差しこんだところで、後ろの咲人に聞いた。

「なあ咲人」
「え、なに?」
「今晩のメシのあとさ、久しぶりに一緒にフロ入らねーか?」
「うぇー?」

 案の定嫌がる彼に、ドアを開けてやりながら急いでたたみかける。

「いーじゃんか。さっきの話、続き聞かせてくれよ」
「……狭いんだけどなー」
「まあまあ。お前先に入ってろよ。お前が浸かってる間に俺が体洗えば効率もいいし」

 玄関に腰を降ろして靴を脱ぎ、咲人は顔を上げた。

「ま……いいかな、たまには」

****

 夕食はトンカツだった。男子中学生がいる家庭、それもスポーツをしているとなるとどこもそうだが、晩メシは食事というよりパーティの様相を呈する。馬に食わすような千切りキャベツを量産しながら、それでも咲さんはこの作業が楽しいらしい。

「包丁持ってニヤニヤしながらキャベツ切り刻んでるのって猟奇的だよな、ぱっと見」

 俺たちはすでに着席して、当店のシェフがメインディッシュの仕上げをするのを遠目に眺めている。

「聞こえてるよハルさーん?」
「うひゃ、スイマセン」

 咲さんのツッコミに肩をすくめていると咲人が聞く。

「なんでいっつもかあさんに要らないコト言うのさ、とうさん」
「いーじゃねえか。これもコミュニケーションの一環だ」
「パパ、ママにせめられるの好きなんだもんね?」
「……そんなこと誰から聞いたんだ、晴実」

 小六の娘も、どこで仕入れてくるのか実に将来性を感じさせる言葉を放つ。冷や汗をたらす脇から咲さんの声が聞こえた。カツを揚げ終えたらしい。

「晴実ぃ、『せめられる』じゃなくて『しかられる』って言いなさいって言ったでしょ」
「……アナタですか、教えたの」
「やだな、あたしのわけないでしょ」

 直径40cmの大皿を置きながら言う。

「気付かなかったんだけど今の同級生に女オタがいるみたいでさ、受けだの攻めだの憶えて来ちゃったんで修正中なの」
「マジかい。知らんかった……晴実、今度そのお友達、パパに紹介……」

 冗談のつもりだったが咲さんにグーで殴られる。

「そーいうコト言うからあたしがあんたを殴んなきゃならなくなるんでしょーが!」
「おにーちゃんおにーちゃん、こーいうの『ママかけるパパ』って言うんだよ、知ってた?」
「その『かける』ってとこ、普通は言わないんだぞ」
「あんたたちもその話で盛り上がるのやめなさいっ!」
「うわ、トバッチリ」
「……『ママ×あたし』だー」

 あんたの血のせいだ、という念をはらんだ視線をくれる咲さん。そんなこと言われてもなあ。

「ああ咲さん、今日きみ先にフロ使ってよ。俺、あとで咲人と入るから」
「ん、ハイ。ってか久しぶりじゃない?あんたたちが一緒に入るのって」
「まーね」
「男同士の話があんだもんな」
「おにーちゃんおにーちゃん」
「ん?」
「どっちがせめるの?」
「攻めねーよ!」
「あんたたち、その話続けるんなら3人とも晩ごはん抜きにするからね」
「……咲さん俺なんも言ってないんですが」
「うっさいっ。ハルさんはいソース。咲人も晴実も判ったらまず『いただきます』!」
「「「いただきまーす」」」

 この大量の晩メシがほんの数十分で平らげられてしまうのだから、成長期の子供というのは恐ろしい。まあ嬉しそうに食事をほおばる二人を見てると癒されるのは確かだが、食費の方に思いを馳せると気が遠くなる。俺はつくづく、咲さんの仕事がうまく行ってて良かったと思うのだった。

****

「入るぞー」
「あ、うん、いいよ」

 脱衣所から声をかけ、引き戸を開けると咲人は湯舟に浸かっていた。

「どースか湯加減」
「いい感じー」
「久しぶりだがどーだ、育ってるかね少年」
「だからそーゆーのやめてってオッサン」
「まーそう言うな、時候の挨拶みたいなもんだ」

 シャワーで体を流し、まず髪を洗う。

「しかし昼間の話さ、いーねえキミラは青春真っただ中で」
「え、とうさんホントにあの話聞きたかったの?」
「だってお前話したそうだったじゃねーか」
「んー……カズヤの話だしさ。それに、うーん、人がシアワセになる話ってなんかさ、いいじゃん」
「オトナだねー、お前」
「そーでもないよ」

 続いて体を洗い始めながら、咲人に言った。

「なあ」
「うん?」
「俺、咲さんに片思いだったんだよね。知ってた?」
「……なに言い始めるんだ、このオッサンは」
「失礼な。その片思いが成就したから、お前や晴実がいるんだぞ」

 咲人に向き直る。眼鏡をかけていないので彼の細かい表情までは判らない。

「俺が咲さんのこと好きだって気付いた時、咲さんには恋人がいたんだ。彼女の幼馴染で、こいつがスーパーマンでさ、美形で頭もいいしゲームも天才的、見たことはないけど多分スポーツも万能だ」
「……漫画みたい」
「俺もそう思った。そんときは俺が主人公だとは思わなかったし」
「え、とうさん、そんな人からどうやってかあさん奪ったの?」

 湯舟から身を乗りだして聞く。興味を持ったらしい。

「人聞きの悪いこというな、選んだのは咲さんだぜ」
「あれぇ、自慢?」
「んー……違うな。俺は、咲さんに悪いことしたと思ってる」
「え、どうしてさ?もとのカレシの方がかあさん幸せだったって言いたいの?」
「いや、彼女を悩ませたことをさ。初め、俺は告白するつもりなんてなかったんだ」

 このことを考えるのは久しぶりだ。人に説明する日が来るなぞ思ってもいなかった。

「俺が咲さんを好きだってこと、咲さんは気付いていなかった。彼氏とうまくやってたからな。だから俺がこの恋心を墓の中まで持っていけば、咲さんはたぶんその彼氏と結婚したろう」
「そうなったら、とうさんはどうするつもりだったの?」
「さーな。ひょっとしたら誰かと見合い結婚でもしたかも知れないし、一生独身だったかもしれない。でも、そうすれば咲さんは重大な決断をひとつパスできた筈だ」

 あの時のことを思い出す。

「……ほんの拍子だった。ほんの拍子に、俺が心を明かすチャンスが来たんだ」
「チャンス?」
「それを通りすぎていたら、たぶん俺は咲さんに一生好きだって言わずに生きていったと思う」
「そん時はオレたちが生まれてないってわけ?」
「そーいうこと。ゴメンな」
「そこ謝られてもなー」
「ちょっと冷えるな、やっぱり俺も入るぞ」
「えー。狭いってばー」

 小さなユニットバスに無理やり体を沈める。咲さんたちが入った後だからいいようなものの、湯舟にはもう湯なんか残っていない。

「……入れるもんだな、けっこう」
「それはオレもびっくりした。とうさんと長いこと入ってなかったから、もうこのフロじゃムリだって思ってたよ……まあ正直、毛ズネがちょっと気持ち良くないけど」
「お前だって生えてるじゃんか、うっすらとだけど。とうさん嬉しいぞ」
「やめてよバカ。先上がるからね」

 俺の返事も待たずに湯舟から立ちあがる。眼前で彼の成長をもうひとつ確認することとなったが、こちらは言葉に出さないでおいた。
 洗い場で体を拭き、サッシを開けて出てゆく時に、咲人は振り向いた。

「……とうさんの話、よくわかんなかったけど」
「ん?」
「かあさんに告るチャンスが、とうさんにあってよかったと思うよ。オレはね」

 髪を拭くタオルの隙間から、にこっと笑う。母親譲りの、快活な笑顔。

「そのチャンスがあったから、オレや晴実がとうさんとかあさんの子供で生まれたってことでしょ。オレはこの家族、けっこうキライじゃないよ」
「おー、生意気」
「はは。お先」
「ん」

 すっかり水位の低くなった湯舟に、シャワーで湯を足す。

「……成長したもんだ。身も心も」

 扉の向こうに彼がいないのを確認して、そう小声で呟いた。

****

「ねえねえ、あんたたちナニ話してたの?」

 二人を子供部屋に追いやり、ベッドルームに入った途端咲さんが聞いてきた。

「んー?取りとめもない話」
「ウソくせー」
「いいじゃない。タマには男同士の秘密って奴も」
「咲人も成長したもんだね」
「あはは、俺も思った」

 クイーンサイズのベッドに並んで横になる。咲さんはまだ興味津々のようで、カマをかけてくる。

「最近咲人、様子が変だったんだよね。和也くんの話もここんとこ聞いてないし」

 ……その辺が落とし所かな。

「その和也くんなんだけどさ。恋人できたらしいんよ」
「え……マジ?」

 俺は慎重に言葉を選びながら、和也くんの告白の話をすることにした。『親友にカノジョができてなんだか寂しい』ってストーリーにしておけば咲さんの興味も満たせるだろうし、内緒話だと念を押しておけば、彼女なら無神経にその話で咲人をからかうことはないだろう。それに……

「今日の帰りに聞いてさ、その子も一緒にいたんだけどね、サッカー部のマネージャー」
「うあー、アリガチ」
「仲を取り持ったのが咲人なんだとさ。実はですね……」

 それに。
 そこにゴールを据えておけば、俺の気付いた……俺だから気付いた咲人の心は、きっちり守り通せる。

 咲人は……彼は、和也くんの恋人に恋していた。

 和也くんのことと言いながら、実際には彼は、彼女の話をしたくてしょうがなかった。夏目さんというその子の名前を口にする時の表情や、ふと会話が途切れた時の、彼のあの顔。間違うものか。俺が自分で経験してきたことだ。
 ひょっとしたら、まだ彼自身が気付いていないかもしれない。よき先輩として後輩の相談相手になっているだけのつもりなのかもしれない。だが、時間の問題だ。
 彼は自分の想いに気付いたら、どう行動するだろうか。俺みたいに人知れず苦悩する?男らしくあの娘に告白し、判断を委ねる?策略をめぐらし、今の恋人からまんまと奪い取る?
 咲さんにさっきの話をする脳髄の別の場所で、俺はそのことを考えつづけて……考えてもしょうがないと結論した。
 最終的にどうするか決めるのは、咲人自身だ。風呂で語った俺の思い出話は、「そんな奴もいるんだ」程度に使ってもらえればいい。

「……とまあ、そんなわけだ。咲人としては複雑なんじゃねーの?嬉しさ半分、寂しさ半分とか」
「へえ、かっこいーじゃん、咲人」
「あ、秘密だからね、咲さん。くれぐれも……」
「言わない言わない。ごめんねハルさん、無理やり話させちゃって」

 咲さんへの話も一段落した。どうやら俺の話に納得してくれたようだ。

「……ハルさん」
「ん、なに?」
「あんたがあたしのこと好きになってくれて、あたし嬉しかったよ」
「……は?」
「コーサカとじゃなく、あんたと結婚できて嬉しかった」
「……ナゼいまさらそんな話をなさるのですか」
「んー、なんとなく。あんたがコーサカのこと、今でも気に病んでんじゃないかって思って」
「そう来ましたか」
「?」

 咲さんは、咲人ではなく俺の心の方が気がかりだったようだ。和也くんたちを見て咲さんの昔の恋人を、俺が思い出したと考えたらしい。

「大丈夫。俺は咲さんが大好きだから、そのことで何かを後悔することなんてありえねえーから」

 横になったまま、咲さんの頭をなでる。咲さんは目をつぶり、安心したように微笑んだ。

「まったく。色恋ってのはややこしいもんだよな」
「そーだね」

 因果な遺伝子だ。俺が痛い思いをして歩いた道を、息子も覗きこんでいやがる。

「そろそろ寝るかい?咲さん」
「ん、ハルさん……もう眠い?」

 ふと、咲さんが俺との間隔を詰める。なにかを訴えるような瞳。

「……え?い、いや、そっそうでもない、かな?」
「じゃ……ね、……」

 もぞっ。手が触れてくる。

「もうちょっと……話とか……イロイロ……しよ?」
「……ハイ」

 咲さんの頭を抱き寄せながら、咲人には彼なりに頑張ってもらうよう祈って意識を切りかえることにした。
 俺が心配したってしょうがない。彼には彼の道があるし、選ぶのも彼自身だ。
 まあ、がんばれ。ちょっと気の毒な血筋を受け継いだ息子よ。
 咲さんのキスに応じながら、俺は思った。

 願わくばお前の行く茨の道に、一輪なりとも美しい花が咲いていますように。





おわり





【おまけ】

 10日ほど経った、ある晩。今日は咲さんが遅いので俺が晩メシ当番だった。晴実は大好きな図工の宿題を片付けたいと部屋に行き、咲さんはまだ帰ってこない。咲人と俺はリビングのソファに並んで座り、それぞれウーロン茶とビールのグラスを持ってテレビのサッカー中継を眺めていた。
 ふと、咲人が言った。

「とうさん」
「ん?」
「こないだのさ、かあさんのこと好きだったけど告らなかったっていう話、あったじゃん」
「ああ」
「……なんかオレ、解った気がする」
「ふーん」

 再び観戦に集中した咲人の横で、俺は平静を装って返事するのが精一杯だった。
 一瞬で冷たい汗にまみれる手のひらを隠し、視界のギリギリでそっと彼を見つめて思った。

 ……息子よ。

 やっぱりお前もか。





【あとがきなど】

去年の秋、10月の7日でしたでしょうか。あるサイトの日記ページで、あるイラストを見ました。
ある人とある人が結婚して、息子と娘に囲まれているイラストです。それを見て、妄想が一人歩きを始めてしまいました。

上記のサイト主・ケンプさんが描いて貼った「咲斑ファミリー」のイラスト。それを見てから書いていたお話です。長らく醗酵してたんですが、今般まとまったんでお披露目。
息子と娘の名前はケンプさんに聞きました。さすがと言おうか、斑目スキーならではのいい名前です。聞いたこっちが照れてしまいましたw

僕自身息子と娘がいますが(まだちっちゃいけどね)将来を思うと楽しいやら不安やら。息子が不良になったら父親がオタクじゃあかなわないだろうなとか、いつごろ娘に「パパくさ〜い」って言われてヘコむんだろうかとか、「お父さん、娘さんを僕に下さい!」って言われたら「貴様に父親呼ばわりされる筋合いなどないッ!」て言ってやろうとか。
斑目のそーいう父親っぷりはどんなだろうかな、と思ってできたストーリーです。

斑目晴信四十ウン歳。いまだにラブラブですワハハ。

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コメント(3件)

内 容 ニックネーム/日時
ご無沙汰しております。いつもブログへの丁寧なコメントありがとうございます。
最萌では支援活動ご活躍お疲れ様でした。
ずいぶん前に「カヨイミチ」鑑賞させていただいてから間が空いたのですが、感想など一つ寄稿させてもらおうかなと思いまして。
たいしたレビューなと゜書けませんが(^^;

斑目夫妻の「咲さん」「ハルさん」の呼びかけに妙に照れくさくなっちゃいましたよw
二十年来の夫婦がこうもフレンドリーなのは一つの理想ですね。
子供たちとのやり取りの情景も目の前に浮かんでくるようです。
もちろんケンプさんの絵も拝見させてもらってましたから、それもイメージの補強にはなりましたが、確実にのsynthさんの中で「成長」していますね、二人の子供たちは。
synthさんの実際のお子さんたちへの将来の姿と関係への思いも加わっているのもひしひしと感じさせてくれます。

私の方も無謀にも「成長」させてしまった少年が一人います。
ネタで創作したつもりの「過ち」(?)の子でしたがシリーズを続けていく内にイメージが膨らんでいくものなのですね。
渓谷
2007/03/21 23:41
きっとsynthさんも続編を続けていけば咲人と晴実への思い入れが強まっていくに違いないでしようね。
サッカー部の非オタ系? 和也との友情は? 夏目さんとはどんな子?オタ、腐女子系で逆イバラの道?などついつい読んで考えてしまいます。ご予定のほどは分かりませんが続編の折にはまた感想寄稿させてください。

最近のSSスレの長編化の傾向で読みためていますが、最萌も終わって一段落の感があります。
最近、読みやすいように縦読みで印刷すると楽な姿勢で熟読できる事に気付きました。

高坂と咲、斑目のエピソードって以前ケンプFAさんが書かれてましたよね? 
その世界観の続編でしょうか?コラボで統一を目指してらっしゃる?
色々飛び飛び鑑賞してるんで錯乱、錯誤してたらすみません。

最近私も単発で書いてきた自分のSSを一つの世界観に統一してみたくなってます。
長々と失礼しました。
渓谷
2007/03/21 23:42
>渓谷さま
長文感想大歓迎でございます。僕自身が長文病だしw、なにより我が子が褒められて嬉しくない親がありましょうや。
僕の書く咲斑ものはおっしゃる通りケンプFAさんの作品を下敷きにしています。『MとSの距離』シリーズがそれで、笹荻成立の少しあと、ふとしたきっかけで斑目の想いが咲に通じることとなるお話です。筋立ても理解しやすく展開の「納得」力もある上、作者氏の斑目愛が痛いほど伝わる話なので好きなのです。コラボというより「人のフンドシ」に近いですね自分的には。
なにはともあれ、キャラクターとして生まれてしまった以上は彼らなりの自我があるのでしょう。渓谷さんちのお子さんwはもうだいぶ「彼ならこうするだろう」という指針が見えていますが、ウチの思春期小僧はまだまだですね。続編は霧の中ですが、これもまた書き続けていくうちに厚みが出てくるのかも知れません。
作中では斑目の語りで終えてしまった咲人のそれまでの人生を、あらためて紡いでやるのもいいですね。なんだかんだ言って僕らの大好きな斑目の息子です。一筋縄では行かないに違いないw

またそちらにもお邪魔させていただきますね。
ではでは。
synth
2007/03/25 16:22

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