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zoom RSS slow step 〜2006年7月19日〜

<<   作成日時 : 2006/07/19 00:00   >>

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注:この作品は原作と異なる人間関係が成立しています。




 初夏の新宿駅は夜だというのにひどく暑かった。週末から夏休みシーズンに突入だが、この街に関してはとっくに休みモードになっているようだ。
 俺はテンションの高い人ごみをかき分けつつ、早足で歩きながら腕時計を確認した。9時半を回ったところ。春日部さんには連絡してあるし焦る理由はないのだが、もう店の片付けを終えている頃合だろう。

 ショップの並ぶ広い道の途中にある彼女の店の前で、春日部さんは表に立ってショーウインドウの中を眺めているところだった。

「春日部さん」

 少し遠間だったが、呼びかけるとくるりとこちらを振り向き、片手を上げてくれる。

「……あ、斑目。お疲れ」
「すまんね、待たせてしまいましたか」
「ん、や、そんな事ない。たったいま閉めて、ディスプレイのチェックしてたとこ。店の中にいると見落としがちなんだよね」

 自分のショップの白い麻のスーツを着て、同色のパンプスにショルダーバッグ。今日のスカートは普段見るものより短く、ストッキングを履いているとはいえ足のラインに目がくらみそうだ。

「どうしたの?斑目。仕事終わりにあんたから来るなんて珍しいじゃん」
「いや……その。会いたくなってしまいました」

 春日部さんは俺の顔をじっと見る。

「……あんたらしくない」
「ウッセ。勇気振り絞ってんのにそらねえだろ」
「あ、気に触った?ごめんねー」

 軽く手を上げて俺を拝む春日部さんに並んで、歩き始める。

「そんで斑目、今日これからどうすんの?ごはん食べた?」
「ん、食べてない。春日部さんもこれからでしょ?」
「今日はうち用意してないんだよね。どっか行こっか」
「うん」

 本当は春日部さんの料理にありつけやしないかとちょっと期待していたのだが、週なかに急に連絡したのでは無理だったか。まーそらそうだ。

 店からほど近い繁華街で、居酒屋に入る。春日部さんはウーロンハイ、俺は中生。

「斑目最近忙しいよね。移動時間見ても……8時くらいまで会社いたんでしょ?」

 腹に溜まりそうなものを中心に注文を終えたところで聞かれた。

「そーなんよ。ボーナス時期から夏休みにかけてはウチも書き入れ時でね。俺事務職なのに、昼はツナギ着てご家庭の水漏れ直したりしてるよ」
「えー?あんた体力ないのに大丈夫なの?」
「いやダメ。ハハハ」

 俺のいる会社は本来は地公体を中心とした上水管理の下請け会社だが、数年前から始めた水周りの応急修理サービスが当たったのだ。俺が就職できたのもその辺のおかげなので、まあ言われれば何でもやっている。ボーナスが出て、長い休みが視野に入ってくると一般家庭では水道管を直したくなるものらしい。

「春日部さんは?そっちも忙しいんでしょ?」
「まーね。今年の秋はトレンドの変化が目立たないんで、逆に品揃えとか苦労してるけどね」
「え、もう秋の服の話か?」
「あのね、『あした着るシャツがないから買う』なんつー消費行動、オタクの世界にしかないから」

 最近の俺たちのアルゴリズムはまるで遠距離恋愛のそれだ。週末会って、平日は仕事を頑張って、また週末が来るのを待つ。春日部さんの店は定休日がないが、彼女は経営者の特権でもって俺と会う日を上手く調整してくれている。そうは言っても、誰だって休みたい日曜日にそうそう店長ばかりフケる訳にも行かず、思うように二人の時間を満喫できないのが寂しい。

「……斑目、明日も仕事でしょ?」
「うん。だけど……コッチから出勤するかな。いっぺん出てきちゃうと夜中に戻るのめんどいし」

 新宿から八王子までは1時間の通勤だ。これまでも週明けなどに時々利用する電車に乗れば、少々の早起きでことは足りる。春日部さんも小さく微笑み、うなずいてくれた。

 居酒屋ではいつものとおり、春日部さんの話を聞く役に徹することとなった。春から始めたばかりの仕事は覚悟していたとは言え初体験のことばかりで、彼女のバイタリティでもなかなかきついことが多いようだ。

「……ホラあたしはバイト長くやってっからいろんな客見てるじゃん?判るのよあーいうの、スパイじゃんよーするに」
「ふえー、そういうのあるんだ、ホントに」
「人んちのデザイン横取りして、それもうまくやってんならまだしも、稚拙な技術で劣化コピー作って、それで『当店のオリジナルですが何か?』じゃねえっつんだよ。服に対する愛情が感じられないわけ。判る?斑目」
「うんうん」
「パクるんならウチよりすごいの作れって。ひと針ひと針に情熱のこもったいい商品ぶつけてくるんなら正々堂々と受けて立ってやるってのよ」
「新規ブランドって大変なんだな。新興サークルが名前売ってくのと近い感じか」
「あーもうまたオタジャンルと比べる」
「イヤほんと似てるんですって」

 こういう時は女性の言う事を黙って聞いてやるのがセオリーだとマニュアル本にも書いてあった。……が、ついそれにかぶせて語り始めてしまうのはオタクの性だろうか。ともあれ、ひとしきりの放言のすえ春日部さんの溜飲も下がったようだ。

「ごめんね斑目、なんかあたし、いつもグチこぼしてるみたいで」

 店を出るなり謝られる。

「んー、いや気にすんな。俺、春日部さんの話聞いてるの楽しいし」
「すぐ自分のテリトリーになぞらえるけどね」
「すんませんね」
「この後は?飲み直す?」

 時間は判っていたが、時計を眺める。11時45分。

「飲み直すのもいいけど、春日部さんの部屋にしない?」
「ん。そうしよっか」

 さっきの店からなら歩いて5分ちょっとの賃貸ワンルームは、ほとんど寝るためだけの場所だという。12畳のフローリングはカウンターテーブルとパーティションでうまく区切られているが、先日来た時よりまた服が増えている。

「いやー……いい服オタっぷりが進行中のようで」
「イヤミ?」
「普通の人ならそう取るかも。俺は褒めてるつもりだけどな」
「あそ。じゃ、あたしも褒められたと思っとく。いちおう、ね」

 カウンターテーブルを回り、バースツールに腰を下ろす。この部屋に来る時はまずここで、春日部さんと一杯やることが多い。
 壁の時計はもうすぐ、短針と長針が合わさりそうだ。

「あたし着替えてきてもいいかな?」
「まーまー春日部さん、そんな慌てなさんなって」
「なに言ってんの、エロ親父」
「いっ、いやそうじゃなくて。座らない?」

 左手首の針は『23:58』。

「……斑目さぁ」

 声に顔を上げると春日部さんはスツールではなく、キッチン側に立っていた。眉をひそめて俺を見ている。

「今日のあんた、なんか変」
「え……なにが?」
「なんか、ソワソワしてない?このあと予定あんの?」
「な、なに言ってんスか、そんなのあるわけ……」
「居酒屋だって珍しくあんたから『もう出よう』って。歩いてる間も時計ばっか気にしてるし、斑目、なんか別のことに気ィ取られてるみたい」

 春日部さんの瞳がほんの少し大きく見開かれ、眉山の角度が僅かばかり変わった。

「斑目……いま、なに考えてんの?」

 ……あ。ヤバイ。

 春日部さんが高坂くんと……前の恋人と別れたきっかけが、『彼と会っているとき、彼女が俺のことを考えていた』ことだったのだ。勘の鋭い彼氏は春日部さんの心が離れたことにそれで気づき、実に紳士的に身を引いてくれた。俺にとっては幸福の極みだが、春日部さんは長いことそれを気にかけていたのだ。……しまった。

「ちょっ、ちょっと待ってよ春日部さん」
「斑目……あたしの話、つまんなかった?なんか、余計な気ィ使わせちゃった?」

 彼女の視線が、俺を訝しむものから不安を湛えた弱気のそれへと変わった。

「春日部さん、俺の話も」
「ごめんね、あたし……あたしいつも」

 バン。

「春日部さんっ!」

 ……思わずテーブルを叩いていた。彼女も我に返ったようで、呆然とした表情で俺を見ている。

「あのさ……」

 もう一言継ごうとした時、テーブルに置いた俺の携帯がけたたましい音を立て始めた。春日部さんの視線がそちらに注がれる。

「……斑目、電話」
「電話じゃねーよ。よく聞いてみ」
「は?」

 電話ではない。メールでもない。俺がセットしたアラームが、バースデイソングを奏でているのだ。

「……え」

 7月19日、午前0時。まったく、慣れないことはするもんじゃない。
 バクバクと音を立てる心臓をなだめながら、春日部さんの顔を見やる。

「誕生日おめでとう、春日部さん。コレが言いたくて今日、会いに来たんすよ」
「……」

 こっちを見る瞳は、ことの流れを今ひとつ理解しきれてない様子だ。漫画なら顔の脇に『キョトン』と書いてあることだろう。

「ふう。計画ではもっといい雰囲気でコイツが演奏始める予定だったんだけど。俺が浮き足立ってちゃうまくねーわな」
「……って……斑目、このために……会いに来たの?」
「ハイ。このためです」
「わざわざ?」
「たいした手間じゃないっすよ」
「タイミングまで見計らって?」
「ごめん。2分ほど早かったんで、春日部さんのこと不安にさせちまった」

 まだどう反応していいか決めあぐねている表情。ただ、ありがたいことに俺の意図だけは汲んでくれた様子が垣間見える。ええい、ぐだぐだで上等だ。用意してきたプレゼントも渡しちまえ。



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春日部さんの誕生日、午前零時ちょうどにお祝いを言うことができた斑目ですが、このあと彼が春日部さんにあげたプレゼントとは何?

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<参考資料>
このSSの下敷きになっている作品
ケンプFAさま『MとSの距離』シリーズ(SSまとめサイトへジャンプします)
簡単に言えば、この作品上では2005年10月から彼らは付き合ってます。

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コメント(2件)

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「……てないんだよ?」「……てないんだよ?」「……てないんだよ?」
リフレインが止まらないんですけど。
よくぞこういうシーンを描いてくださいました。
ありがとうございます。
でき
2006/11/23 03:58
いっぺんこんなこと言われてみたいもんですねw
岩瀬さとみという漫画描きがおりまして(今も活躍してらっしゃるんでしょうか)、ポリタンとおねえさんのシリーズに要するにこういうコトを匂わす作品があったのです。もうそれ以来いつか使ってやろうと。
みなさまにダメージ与えられて光栄でございますw
synth
2006/11/25 06:22

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