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zoom RSS 愛のエプロン:前編 〜2005年10月のなかば〜

<<   作成日時 : 2005/10/18 00:00   >>

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 秋も深まるある10月なかばの午前中。現視研の部室には大野加奈子と荻上千佳だけだ。学園祭まではまだ日数もあり、何もない平穏な日々が彼女らの頭上をたゆたっている。
「大野先輩」
「はい?」
 スケッチブックに落書きしながら、千佳が加奈子に話しかけた。加奈子はノートにコスプレのリストを書き込む手をとめ、顔を上げた。
「あの……ちょっと聞いていいですか」
「え、なんですか?」
 千佳は何かいいづらそうだ。
「……笹原さんのことですか?」
「まあ、そうなんですけど」
 彼女が笹原完士と付き合い始めて、まだひと月そこそこだ。加奈子にも覚えがある。
「ははーん。笹原さんのココがわからないとかソコが知りたいとか、いろいろ出てきたんですね?」
 友達以上の関係であることに慣れてくると、恋人の考え方や性格などがかえってわからなくなる時期がある。お互いに『友達』には言えなかったことを打ち明けるようになるためだ。
「わたしにもありましたよ、そういう時期。田中さんの考えてることが判らなくなって悩んだりしたんですよねえ。でもね
荻上さん、だいじょぶですよ、すぐになんでも言い合える仲になりますから」
「いやあの、そういうことではなくて……んー、それとも、そういうことなんでしょうかね?」
「どんなことですか?なんでもお答えしますよ」
 加奈子は期待最大限だ。
「(わくわく、どんなことなのかしら。わたしも田中さんとお付き合いし始めた頃はあんなことやこんなことが……)」
「あの、大野先輩は、田中さんにどんなお料理、作ってますか?」
「え……お料理……ですか?」
「はい……」
 どう説明したらいいのか、といった風で千佳は話し始めた。加奈子の冷や汗には気づいていない。
「笹原さんに、何回かうちに来ていただいて。それで私の料理、食べてもらったりしたんです。私も普段自炊が多いですから、まあ、自分の普段作るようなもの、作って」
「へ、へえ」
「あ、と言ってもカレーとか魚の焼いたのとか、もうごく簡単なヤツなんです。あんまり自信なかったですけど笹原さん、おいしいって言ってくれて。嬉しかったんですけど、……もうレパートリー、ないんですよね、正直」
 千佳の手元のスケッチブックは、知らないうちに食べ物の絵ばかりになっていた。自分で言ったカレーと焼き魚、その流れからすると実際に彼女が笹原に作ってやったのだろう、トンカツや唐揚げ、味噌汁らしきお椀。皿に盛ってあるのは野菜炒めあたりか。彼女の言葉と合わせて考えると、なるほど基本的なレシピばかりだ。
「料理本とかもあんまり見慣れてなくて。こないだ試しに1冊買ってみたんですけど、読んでる間に時間が過ぎちゃって。なんかいっぺんに二つ以上のことできないみたいなんですよね、私」
「あ、あー、そういうことってありますよねー」
「大野先輩はどんなの作ってるんですか?」
「え」
 千佳は不意に加奈子に向き直った。思い切って聞く心づもりができたらしい。
「先輩はアメリカに長かったから、雰囲気の違ったお料理ご存知なんじゃないかなって思って……あ、もちろん私にどうにかなるくらいのやさしい奴で。なにか教えていただけませんか?」
「えぇー?わたしのお料理をー?」
「はい。あつかましいとは思ったんですけど」
「う〜ん……頼ってくれるのは嬉しいんですけどぉ」
 この話題の最初から彼女の流している冷や汗が、ひときわ大きくなった。
「ダメ……ですか?」
「や、ダメなのはそのポイントではなくて……」
 しばし言葉を探していたが、観念したようだ。加奈子は目をそらしながら、小声で打ち明けた。
「あのう……わたし……お料理、ほとんどダメ、なんですよね」
「……え」
 千佳の目が見開かれる。
「……アメリカとは言えわたし親元だったし、しかもあっちってデリカテッセンとかレンジミールとかすごい発達してるんですよね。お友達と集まっても大体ピザとポテトとコークで用が足りちゃって」
 加奈子は赤くなって言い訳を並べている。
「あ、すいませんそうとは知らなくて……」
「ホームパーティなんかで親の手伝いで作ったことはあるんですけど、どうもわたしって分量の加減ができないらしくて、味は誉めてもらえるんですけど何作っても食べきれないような分量に……」
「あっあの」
「向こうではsupersize'emとか一人食品工場とか呼ばれて。田中さんもね、あの人優しいから言わないんですけど、お付き合い始めて半年くらいでお料理と洗いものの役割分担が逆になってて……あーん荻上さぁん、わたしにお料理教えてください〜」
「ソレ私が持ちかけた相談ですよっ!」
 料理に関する質問は加奈子の鬼門だったようだ。しまいには逆に料理を教えろと迫る彼女に千佳が弱り始めた頃、部室のドアが開いた。
「よっす、誰か……おー、大野と荻上だけ?」
「咲さん!久しぶりですね」
「あ、こんにちは」
 現れたのは春日部咲だ。最近は卒業後の準備とかで、彼女が部屋に顔を出す頻度は減りつつあった。
「やー、ガッコ来んのも久しぶりだよ。これで年内は学生生活メインでやってけるかな」
「(あ……咲さん!)」
「(え?ああ……いやでも……春日部先輩ですか?)」
「今日はゼミだけ顔出して終わりだし」
「(う、うーん、やっぱ違う感じですかねえ)」
「(キャラじゃないっつうか)」
「コーサカも週末あたりから時間できるって……おい?」
 少し疲れの見える咲の顔を見るなり二人の間で交わされた目くばせを、彼女は見逃さなかった。
「お前らがナニ考えてんのかは知らないけど、なんか一点の悪気もなくあたしを見くびってんのはピンときたぞ?」
「ええ?そ、そんなつもりじゃ」
「そっそうですよ、私たちべつに」
「そもそもお前ら二人がそんなに仲いいのがおかしい」
「ええ、だってわたしたち合宿以来すっかり仲良しに、ねえ荻上さん?」
「大ー野ぉ」
 話をそらそうとする加奈子の努力は、咲のドスの聞いた一声で灰塵に帰した。鋭い視線が加奈子を見据える。
「話してみ?」
「あうう〜」
「あううとか言うな!」
****
「料理?なにお前ら苦手なの?」
「……はい」
 体に空きができた今日の咲には物事を楽しむ余裕が生まれていた。さっきまでの話の流れを把握したところで、ニヤリとする。
「荻上もまだまだだけど、まあイマドキの女子大生にしちゃしっかりやってる方だろ。これからは笹原もいるし今後に期待だな。それより大野ぉ、お前田中にメシ作らせちゃったら負けだよ、女として。あいつ専業主夫にするつもりじゃないんだったら、男心をホールドするテクニックくらい磨いとかなきゃあ」
 恋愛の先輩として、一般人女性の代表としてとうとうと語る。
「……っあ、あの」
「ん?」
 なにか悪いことをして説教されているような雰囲気になってきたのを打開すべく、千佳が声を発した。
「春日部先輩は、高坂先輩にどんなお料理作ってるんですかっ?」
「お、そうだったそうだった」
 先ほどのアイコンタクトを思い出す。
「さっきのアレ、要するにこのことだったんだろ?あたしは料理作れなさそー、って」
「すいません」
「ふっふっふ、おばあちゃん子なめんなよ?あたし、よっぽどでなきゃキッチリ朝晩作ってるよ」
 携帯電話を取り出し、カメラ画像を表示させて加奈子に渡す。
「ほらコレ先週。コーサカ何日か泊まってったんだけど、そんときゃあ頑張ったね、我ながら」
 千佳も脇から覗き込む。咲が自室の食卓で、高坂と並んで笑っている。フレームからは半分方切れているが、テーブルに並んでいるのは地味ながら豪勢な晩餐だった。旬の野菜の煮物、玉子焼きに鰈の煮付け。咲の自信を見れば、画面の端に映っている佃煮さえただ買ってきたものではなさそうだ。
「うわあ、おいしそう」
「……なんか、母の料理思い出しますね」
「和食だってこと?うん、多いなあ。そればっか作ってると調味料とか偏ってくるんだよね。あたしが好きだし、コーサカが仕事場でジャンクなもんばっか食ってるから、あいつのこと意識するとなおさらこんな感じになっちゃうなあ」
「咲さぁん、わたし咲さんのこと見直しました」
「ったく失礼だよねー。人を見かけで判断すんなっつうの」
「ごめんなさい……あ、でっでもホントおいしそうですよねこれ。ねー荻上さん」
「はい」
「ふふふ、もっと言ってもっと」
「このお野菜なんかいろんな種類入れてますよねー。わたしがこういうの作ると多分20人前とかになっちゃう……これ写真の拡大ってどうやるんですか?」
 料理に興味を示した加奈子は、咲の携帯を操作し始める。
「え?あっ、ちょっと待て大野」
「え」
 操作の結果表示されたのは拡大画像ではなく、ただ次の写真だった。
 ……裸の咲と高坂がキスをしているシーンだ。画像は二人の肩から上だけだが、このシーンの後二人がどうなっていくのかはいとも簡単に想像できる。
「わーっ!」
 慌てて加奈子から携帯を取り上げるが、すでに二人とも顔を真っ赤にしている。
「あ……あはは、いーじゃないあたしたち付き合ってるんだしー」
 咲自身も赤くなりながら強がって見せるが、二人は聞いていない。
「……てゆーかあんな写メ撮って持ち歩いてるっつうのが」
「あれ咲さんが自分で撮ったってことですよね」
「ちくしょうお前らの相談なんか乗るんじゃなかった。しかも今回あたしから首突っ込んでるし」
「あああ咲さんそんなこと言わないでくださいよう」
 思わぬオウンゴールにくずおれる咲を、あわてて加奈子がとりなす。
「いつかお前らの恥ずかしい写真も見てやるかんな。でも今ちょっと思いついたよ」
 とりあえず立ち直ることにしたらしい咲が言う。
「え?」
「な……なにを思いついたんですか?」
「あんたたちの料理上達法」
 その時、部室の扉が開いた。もう昼どきになっていたのか……現れたのはコンビニ弁当をぶら下げた斑目晴信だった。
「こんちゃー……わ、春日部さん、久しぶりだね」
「ごぶさた。ねーねー斑目、今週の金曜の晩って時間ある?」
「え?なんすかイキナリ」
 いきなりの展開に驚いているのは斑目だけではなかった。加奈子と千佳も、咲の話題の転換っぷりに置いてゆかれていた。
「空いてんの?空いてないの?」
「そりゃー空いておりますとも。今の時期なら定時に帰れるし、コンビニ弁当食ってアニメ見て寝るだけっスから」
「そっか、よしよし」
 咲は斑目の言葉を聞きつつ、千佳たちの方をニヤニヤと笑いながら眺めている。
「……春日部先輩?」
 千佳の脳内で警報が鳴った。これは、なにか、来る。
「斑目ぇ。今ちょーどあたしたちで計画してたんだけどさあ」
「ん?」
 ……『あたしたちで』?
「今度の金曜、大野んちでみんな集まってホームパーティやろうって決めたんだ。あんたも来るでしょ?」
「へ?パーティっすか」
「いっ!」
「えええっ?ちょ、ちょっと咲さんっ」
 斑目は突然降ってわいた話に面食らい、彼以上に動揺している加奈子と千佳には気づかない。彼としては当日に予定がないとたった今言ってしまっていたし、ほかならぬ咲の誘いなら断る理由はなかった。咲は後輩たちに笑みを浮かべながら、斑目のほうへは一瞥もくれず続ける。
「コーサカがさあ、金曜に仕事一段落するって言ってんのね。だけどあーいう仕事だから何時に上がるのか判んないし、そしたらあたし待ってる間ヒマじゃん?でね、大野と荻上が『みんなで料理つくってパーティやろう』って言ってくれたのよ」
「ほー、面白そうじゃん」
「でしょ。そんな集まり方したらアンタ呼ばないのも変でしょ?全員現視研なんだし。もちろんクガピーとかも来れるんなら呼んでさ」
「……あれ?うーん、ちょっと待ってくださいよ」
「なに?」
「それはつまり、現視研の3カップルがアツアツになってる中、俺が一人悔し涙に暮れるという企画なのか?」
「いじけんなって。コーサカ来れなかったらあたしがお酌くらいしてやっから」
「……ハハ、それは楽しみですこと」
 斑目の脳裏に、差し向かいで徳利を傾ける咲の笑顔がよぎった。一瞬顔の筋肉が緩むが、気力で平静を保つ。
「うん、もちろんヒマだし、それじゃあ一口のっけてもらうかな。あ、俺当然料理できないけどいいんだろーね?後片付けとか酒とか食材費の担当ってこと?」
「さんきゅーさんきゅー。モチよ。男たちは女たちの手料理を旨い旨いと食うのが役目だかんね」
「あれ……ひょっとして春日部さんも作るの?」
「お前までそういうことを言うのか」
「キャラじゃないでしょー、だって」
「ヨシ斑目、もし旨かったら土下座さすかんな」
「はいはい、ちゃんと胃薬も人数分持ってくさ。……ところで」
 軽口の応酬が一段落したところで、彼は視線を横に移した。
「今の話の流れでは立案者だというお二人がですね、完全にフリーズしておられるようなのですが?」
 二人の会話に入り込む隙を見つけられなかった加奈子と千佳である。加奈子はただおろおろするばかり、千佳もここまでずっと、何か言いかけては口ごもることを繰り返していた。
「あー、二人はいいの。どんな料理作るか夢想中なんでしょ、きっと」
「トテモそうは見えませんがね」
「あんたたちは週末を楽しみにしてりゃあいいの。大野も荻上も解った?ちゃんと田中と笹原呼んでくんだよ?」
「……あう」
「ハイ」
 100%咲の差し金だ。そう悟った斑目は、これ以上は突っ込まないようにしようと心に決めた。昼休みもどんどん過ぎていく。持参したコンビニ弁当のパッケージを破りながら、彼は週末のパーティを想像していた。
「(まあいいか。春日部さんの手料理かー……)」
****
「咲さん!どうするんですかあんな企画立ててー!」
 斑目が帰った直後、ようやく我に返った加奈子は咲に抗議した。部室は再び女性3人だけになっている。
「お、やる気になった?いーじゃん」
「やる気じゃないですよ!咲さん全部決めちゃうんですもん。しかもわたしの部屋使うって勝手に!」
「あはは、ごめんごめん。でも荻上んちより広いんでしょ?荻上んとこはあたし行ったことないけど、あんたのキッチン使いやすそうだったじゃん」
「ええ……まあ」
「むしろ大野、自分の土俵だよ?やりやすいって考えなよソコは」
 咲の弁舌は巧みで、加奈子の対人対応能力では太刀打ちできない。あっという間に納得させられている。
「あんたの料理の弱点はたぶん素材の計量だよ、さっきの話からすると。味で評判悪かったことはないんでしょ?味の調整してる間に知らないうちに鍋の中身が増えてたりしてない?」
「あ……確かに」
「大野ってレシピ本使わないんじゃない?親の手伝いで覚えた?やっぱね。作ってる途中でなまじフォローできちゃうから、仕事の総量が見えなくなってんだと思うな。つまりあんた料理うまいんだよ。はじめに計画立てる癖つければ、なんだって作れるって」
 畳み掛けるように加奈子の不安に思っているポイントを突く。話題が変わっていることに気づいた頃には、反論の機会が消滅しているという寸法だ。
「それから荻上はねー」
「はっはい!」
 もう話題の矛先すら変わっている。加奈子は言われたことに感心しているほどで、自分が言い込められたことを自覚していない。
「あんたはたぶん数こなせば大丈夫。基本ができてるってことは応用ができるってことなんだから。レシピの使い方ってのは、まず材料を準備してから手順を暗記して、もう本は見ないの。本読みながらジャガイモ切ってたって間に合いっこないんだし」
「はあ」
「冷蔵庫のアリモノでなんか作るのと、レシピ見て料理するのは別の技術だからね。レシピどおりに材料買ってきて作るじゃん?まず。そしたら次の日は、残りの材料で別の料理作ってみんのよ。お薦めはポトフやシチューなんかね、目を離したりしなけりゃまず失敗しないし、もし味付けミスっても取り返しがつくから。不安ならカレーにしなよ、笹原なら何日続いたって食べてくれるんでしょ?」
 千佳はスケッチブックの余白にメモを取り始めている。
「コスプレん時にどんなポーズをとるかだとか、漫画描くのとかだって実際にやってみたり、何回も練習したりしてるんでしょ?料理もおんなじだよ。ましてあんたらの試食係はマズいとかって絶対言わなさそうだし」
 コスプレや漫画を引き合いに出されて、二人も少し安心したようだ。確かにそうだ、自分の趣味に関しては、練習量も失敗の数も誇りに思うことができるではないか。うまくいかなければそれが実力で、背伸びなど意味がない。次に一歩でも半歩でも進めればいいのだ。
「ありがとうございます春日部先輩。ちょっと勇気わいてきました」
「よしよし」
「わたしもー。咲さん咲さん、どうせパーティなら本格的にしましょうよ」
「本格的?」
「月末はハロウィンですよお。その頃はもう学祭の準備で忙しいから、これハロウィンパーティにしちゃいましょう」
「あ。お前の言いたいことはもう判った」
 意気込む加奈子に牽制を入れる。ハロウィン→仮装など、子供でも考え付く。
「えー、でもでも、高坂さん来てくれるかも知れないから咲さんも頑張ろうって思ってるんでしょー?」
「う、まあそりゃそうだけど」
「だからエプロンどうですか?かわいいエプロンドレス。せっかくお料理作るんですから、それっぽいカッコってことで」
「そんなコスチュームあるのか?」
「いーっぱい。赤毛のアンとかアリスとか赤ずきんとか。田中さん、ちょっと前に古典系ハマってたんです。テーマが合わないんで着るチャンスなかったんですよねー。もちろん最近のメイド系もありますけど」
「おー、いつもの奴よりはよほど興味引くな。メイドはともかく」
「じゃ、じゃあゼヒ」
「それとこれとは別。まあ、持ってきてみ?気分しだいだな」
「はあい。荻上さんはアリスですかねえ、やっぱり」
「え?って私も着るんですか?」
「おーいーな。髪おろせばいい線行ってるんじゃないか?」
「春日部先輩!」
「いーじゃん。笹原喜ぶぞお」
「もうっ、全部それですか」
「そうは言っても、お前も今は全部ソレ中心で行動してんだろ?」
「……う」
 こうして反対勢力は沈黙し、いつの間にか始まっていた『第1回ハロウィンパーティ企画会議』は終了したのだった。
****
「……で、どうでしたか荻上さん、笹原さんの様子は」
 その日の夜、加奈子は千佳と電話で会話していた。
「……大喜びで参加するそうです。電話の声が期待で光り輝いてるようでしたよ」
「田中さんもでしたー。正直、こんな気の重いパーティ初めてですよ」
「でも大野先輩、パーティ料理は得意分野じゃないですか。私なんか何を準備すればいいのかも不安です」
「咲さんがレシピ用意してくれるって言ってたじゃないですか」
「恐ろしく複雑な工程表持ってこられたらどうするんです?」
「う……。パーティをダメにするようなことは考えてないと思うんですけどねえ」
「ハア」
「荻上さん……?今夜って笹原さん、いらっしゃるんですか?」
「え?いえ、今日は会わないですけど」
「もしよければ、今から私の家にいらっしゃいませんか?わたしちょっと、誰かとお話したい気分なんです」
「……私もです。お酒ナシでいいなら、お付き合いしますよ」
 千佳が電話を切って上着を取りに行った頃、笹原は自宅のパソコンで『ハロウィンパーティ』の画像検索をして週末に思いを馳せていた。本当なら今夜から取り掛かっているはずの、春からの就職先とやり取りしている書類の束が足元に落ちたのにも気づいていない。
 同じ頃、田中はついに日の目を見そうな衣装コレクションを選定していた。名作劇場シリーズとおとぎ話関連、すでに十数着が床に並んでいる。
 咲は咲で、恋人がパーティに飛び込んでくるところを想像しながら当日のレシピをリストアップしていた。
 そして斑目は、コンビニ弁当を前に録画しておいたアニメを鑑賞中……いや。上の空だ。彼の意識もまた週末へ飛んでいる。
 各人それぞれの想いを乗せて、週末への時間はゆっくりと、しかし確実に、秋の夜空を進んでいった。

<前編おわり>

<後編を読む>


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