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zoom RSS ブレス 〜2006年3月25日〜

<<   作成日時 : 2006/03/25 00:00   >>

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 目覚ましの音でゆっくりと目を開ける。カーテンを開けっ放しで寝てしまったが、おかげで窓の外から穏やかな朝日が部屋を照らしてくれている。あの人はまだ寝ているだろうか?それとも起きて、また漫画を描いているんだろうか。
 今日は俺の卒業式。あの人は昼から合流の予定だ。
 昨夜はちょっと残念だったけど、互いの家へ帰った。別れ際に駅の階段の影でしたキスの感触が、今も唇に残っている。
 あの人は今日、どんな姿で来てくれるのだろうか。俺のリクエスト、聞いてくれるかな?それともいつものラフな格好で現れるんだろうか。どっちでもいい、会ったらまず『きれいだよ』って言ってあげたい。仲間たちが冷やかすかな?それなら二人っきりになって、すぐ言ってあげよう。
 壁につるしたままのスーツを着て、あの人が選んでくれたネクタイを締める。安いツルシだし、就職活動からこっち、ずいぶん着たからけっこうくたびれている。春になったら、あの人と一緒に新しいのを買いに行こう。
 家を出て、ひと呼吸。





 シャワーから出て、部屋着を着る。机に座って、スケッチブックを開く。
 まだかなり早いけれど、もう心が急いてしまっていてひとつところにいられない。結局こういうときには、絵を描いて気を落ち着けている自分に苦笑する。
 今日はあの人の卒業式。私は今日、彼と彼の大事な仲間たちを見送る。サークルには後輩がおらず、寂しくて彼に泣き言を言ったりしたこともあった。でも今は笑って、彼らを送りたいと思う。私が私でいつづけられたのは彼らのおかげなのだから、彼らが彼らの道を行くのを私は祝福してあげたい。
 壁にかけた服を見る。今日のために買った服。こんな女の子っぽい服を買うようになったのも、成長ってことなのだろうか。
 あの人にも秘密にしておいたこの服を着ていったら、彼は喜んでくれるだろうか。かわいいって思ってくれるだろうか。
 何も言われなくたってかまわない。彼のために、私が着たくて着るのだから。
 本当は今すぐ家を出て、式の前の彼に言ってあげたい。誰よりも早く『卒業おめでとう』って。でも、それは浮かれすぎというものだ。なにより彼が迷惑するだろう。あと少し、あと少しだけ待てば、彼に会える。その前に『おはよう』のメールくらいは打ってもいいかな?
 もう一度机に座りなおして、ひと呼吸。





 ベッドからそっと抜け出す。隣で彼女が、軽い寝息を立てている。まだ少し早いし、起こすことはない。
 先にシャワーを浴びて、たまには僕がコーヒーくらい淹れてあげよう。
 今日は僕たちの卒業式。二人とも卒業が決まってからはその後のことで忙しく、今日も出席できるかどうかでひやひやしていた。40時間寝てない僕が彼女の部屋に合鍵で入ったら、彼女も仕事の打ち合わせや下準備が続いていたらしく、二人で赤い目をして笑いあったのが数時間前のことだ。眠気とハイテンションの狭間でベッドの上でじゃれあって、結局2時間も寝てないんじゃないかな?
 カーテンの隙間からは明るい日差しが漏れている。いい天気でよかった。僕の最近の生活では、太陽の光を見ることが少ない。今日くらいは日の当たる道を、彼女と一緒に歩きたいと思っていた。僕が好きなことをするのを許してくれる彼女、半ばあきれながらも一緒についてきてくれた彼女を、僕は一生離したくない。
 そっと頬にキスする。彼女はくすぐったそうにむにゃむにゃと笑う。その顔がたまらなくいとおしくて、声に出さずに「好きだよ」とつぶやいてみる。
 音を立てないようにバスルームの扉を開け、そして閉める。脇の鏡に映った幸せそうな自分の顔と、首のキスマークに気づいた。ネクタイすれば隠れるかな?
 昨夜の彼女の感触を思い出して、ひと呼吸。





 彼がシャワールームに消えるのを、あたしは目を閉じたまま感じている。昨夜からのテンションのせいか目は早々に覚めたが、なにしろ体が動かない。ガンバリすぎかなー、トシとったなーと後悔しつつ、あたしの体は昨夜の彼を反芻していた。
 今日はあたしたちの卒業式。彼もあたしも卒業後の仕事にすでに取り掛かっていて、こうやって自分の部屋で朝を迎えられたのが奇跡に思える。それも、彼と一緒に。
 彼はあんなだから、あたしのことを置いておいても大丈夫だって思ってるかもしれない。でも、あたしだって人並みに寂しさを感じることがある。彼はたぶん、天然なりの超常的なカンでもってそれに気づき、ゆうべみたいに突然現れるのだ。普段の天真爛漫っぷりと時々見せる真剣な表情。彼に両方備わっていてよかった。あたしもそのおかげで、やりたいことをやりたいようにできる。これから数年は、本気で忙しいだろう。そんな中であたしはたぶん、あたしがホントにさびしいときにひょっこり現れる彼に期待しているのだ。
 普段はエロゲーばっかの彼でかまわない。正直理解できないし、それでいいと思う。彼がくれるご褒美が時々あるから、あたしはまた頑張れるのだ。
 シャワーを浴び終えたら、彼はあたしを起こしてくれるだろう。それまでは、さっきまでの優しい彼を体全体で思い出していよう。
 毛布を頭からかぶって、ひと呼吸。





 家から一歩外へ出て、わたしは春の空気を思いっきり吸い込んだ。今日はいい天気。みんなにも会えるし、懐かしい顔ぶれも集まるはずだ。わたしの大好きなあの人も来てくれる。顔を見られるのは3日ぶりだろうか。
 今日はみんなの卒業式。わたしの卒業は半年後だからちょっと寂しい気もするけれど、今日はみんなを明るく祝ってあげよう。
 日本に帰ってきて入ったこの大学で、わたしはとても幸せになれた。好きなことをできる場に出会えて、好きなことを一緒にしてくれる人に出会えた。好きなことをさせてくれる仲間に出会えた。わたしはこの場所に、とても大きなものを貰うことができた。
 次はわたしの番だ。みんなが卒業して寂しくなるサークルに、わたしがあと半年いられるのは素晴らしい幸運だと思うことにした。
 後輩たちを引っ張って、この春には新入会員をいっぱい集めよう。この半年のうちに、わたしがあげられるできるだけ多くのものを後輩たちにあげよう。会長職なんか次の人に渡して、ご老公気分でどんどん動き回ればいい。引き継ぎは今日発表すれば都合がいいし、彼女ならたぶん引き受けてくれるだろう。彼女もここから多くのものを受け取ったクチだ。解ってくれるに違いない。
 空高くつきぬける青空を見つめて、ひと呼吸。





 もうだいぶ高い位置にある太陽を見つめて、俺は目を細める。昨日も徹夜だったが気分は爽やかだ。夜明け前に来週のイベント用の型紙を抜き終えた。ここを越えればゴールは見えたも同然で、あとは切って縫うだけだ。
 今日は後輩たちの卒業式。俺たちOBは夕方に現地集合でいいと言われたが、昼飯を食べたら早めに顔を出してやろう。彼女も先に行っているし、俺はあのハレの雰囲気が好きだ。みんなが飛びっきりの衣装を着て、とっておきの笑顔で集まっているあの空気。みんなが幸せそうだと、こっちまで楽しくなってくる。
 彼女の卒業は半年後だから、しばらくは心細いかもしれない。口ではもう平気だと言っているけれど、どこかしら頑張っているに違いない。幸い俺はまだ学生の身分でいられるから、空いている時間をフルに使って彼女を支えてあげよう。コスプレもそうだし、もっと普通のデートもしてあげようか。年下のクラスメートたちは遊び場をたくさん知ってるから、すこし若者向けのスポットでも仕入れておこう。
 心が浮き立ってしょうがない。地元にいてもすることはないしさっさと出発して、昼飯は久しぶりに大学の近くのあの店に行ってみるか。
 懐かしい味と店の雰囲気を思い出して、ひと呼吸。





 服を着て上着を羽織って、オレは家を出た。みんなと会うのは久しぶりだから、なんか緊張している。新規先に飛び込みするのとはまた違った、ワクワクするような高揚感。
 今日は後輩たちの卒業式。目の回るような1年を過ごしてきたオレにしてみれば、同窓会に近い気分だ。先日仕事中に宅配屋のマネゴトをさせられてなければ、どんな顔してあいつらに会えばいいか判らなくなってたかも知れない。
 1年続けられたからかもしれないが、営業回りもそう悪くないと思うようになっていた。病院の事務室は概して静かで、あれだけ不安だった声の小ささもさほどハンディにはならなかった。自分で言うのもなんだけど、でかい図体で小さな態度というのもお医者の先生方には好印象だったようで、ダントツとまでは言わないが、課内でも悪くない実績を上げることができた。なにより病気の人が元気になる手伝いをできてるって実感してからは、やりがいも湧いてくる。
 大学を卒業して1年、たぶんオレはけっこう成長できたと思う。サークルでは後輩にまで迷惑をかけたことがあったけど、今日はあいつらに胸を張って会えそうだ。5回に1回くらいは、最初の一言を口ごもらずに言えるようにもなったし。
 あいつらの卒業を祝う言葉を考えながら、ひと呼吸。





 この1年間のことを思い出しながら、俺は大学への道を歩いている。卒業してからも、ほとんど毎日歩いた道。俺はこの道を、明日からも歩くことになるんだろうか。
 今日は後輩たちの卒業式。俺の心にいつの間にか居座っていたあの人も、明日からは学校に来る理由がない。通いなれた部室の見慣れた場所に座って、あるときは仕事でパソコンを叩き、あるときはぼんやりと漫画を読んでいた人。笑った顔、怒った顔、泣いた顔、俺を殴ったときの拳の感触だって全部憶えてる。最後の最後に俺の心を打ち明けるチャンスがあった、あの日のことも。
 あれから数日の眠れない夜を経て、俺の中ではある程度の決着はついていた。結局、告白をしなかったことが俺自身なのだ。そのことをたぶん一生、折に触れて思い出しちゃあ後悔するだろうことも俺自身の生き方なのだ。『一生後悔する生き方を選んだ』ことを、後悔してはいない。われながらおかしな言い方だとは思うが、今の恋人から彼女を奪うシーンも、男らしく告白して玉砕するシーンも俺には思い浮かばない。将来俺が結婚するかどうかは知らないが、中年になっても老人になっても先日のことを思い出して布団の中で煩悶に身をよじるのが俺には似合っている。俺が彼女を想っている限り、俺の想いが成就しないでいる限り、彼女はきっと幸せでいてくれると思うのだ。だから俺は、こんな宙ぶらりんの精神状態のまま、あの人の卒業を心から祝える。もう一生会えねぇのかな?それとも、なにかにつけ俺に幸せな様子を見せ付けてくれるのか?どっちでもいいや。きっとどっちも、俺の選んだ道だ。
 桜色を運ぶ風を体に感じながら、ひと呼吸。





 頭からかぶっていた毛布を跳ね飛ばして、あたしはむっくりと起き上がる。この1週間くらいは、ずっと実家で生活している。両親も安心半分、不思議半分といった感じ。
 今日は兄貴たちの卒業式。この何日かは兄貴に感づかれないように、あたしなりに細心の注意をもって行動していた。今日の卒業式に顔を出すと気づかれたら、きっといやぁな顔をされたろう(ソレもちょっと見たかったけど)。
 本心を言えば、今は兄貴のことを尊敬している。ちょっと前にはカノジョまでゲットして、まるで普通の大学生みたいだった。高校のころからの変身っぷりを思えば、「卒業おめでとう、おにいちゃん」って言って抱きしめてやったっていい。だけど、なんか負けた気がして悔しいからこのことは秘密。
 代わりに、ナイショで卒業式に行って、あいつのカノジョをからかってやろう。……『お姉ちゃん』。あはっ、コレいい。会うなりそう呼んでやろっと。オタク同士でお似合いだし、正直あたしとは波長が合わないけど、兄貴のヨメさんにはちょうどいいんじゃないかな。
 将来の定まらないあたしからすれば、オタクをやり通して仕事も恋人も手に入れた兄貴は掛け値なしにすごい奴だと思う。いつか、ほんとにあの子が『お義姉ちゃん』になるのかなあ。
 幸せそうでいて、でもなんかへんてこりんな将来を想像して、ひと呼吸。





 高く高く透き通る朝の空を見つめて、オレは体中に気合を溜める。なにやら楽しげな予感に早起きしてしまったが、集合時間までまだだいぶある。いっちょ走りこみでもしてくるか。
 今日は先輩たちの卒業式。今日のオレの任務はいうまでもない、みんなの盛り上げ役だ。
 3人の先輩方が卒業すると、サークルにはオレを含めて3人(あ、学外にもう1人いたか)しか残らない。しかもオレ以外は全員女子で、先輩方の不安を察するに余りある。ここはひとつ、オレがサークル、ひいては追いコンを史上最強に盛り上げて、みんなに「ああ、あいつに任せておけば安泰だ」と思わせなければならないのだ。現会長だってあと半年で卒業だから、去年みたいに新会長の発表が今日あるはずだ。オレは4年になるけどなあに、就職活動も会長職もなんなくこなしてやるさ。
 2年の4月から2年間、なんだかんだ言ってこのサークルはオレを認めてくれてきた。若干居心地が悪かった時期もなくはないが、今思えばちょっとしたスパイスみたいなもんだ。うな丼にだって山椒のひとつかみが必要だ(ってひとつまみじゃねーのかよソレ多すぎーっ!)。
 先輩方をいままで楽しませてきたオレにとって、最大級のサービスのできる日。オマエラいや失礼ミナサン覚悟するがよいヌフフ。
 湧き上がる明るい未来を予感して、ひと呼吸。





 未来まで見通せそうな校舎の屋上で、僕は肩の力を抜いてみる。春そよぐ暖かい風に、体が浮き上がるようだ。
 こんなに暖かい春が思い出になる、みんながうらやましい。
 今日はみんなの卒業式。僕もだいぶ前に卒業したけど、なにかにつけついここに来てしまっている。やはりここは居心地がいい。
 今年卒業するのは3人。僕が直接関わったメンバーも、半年後にあと1人送り出せば終了だ。あれ以来顔を出さなかったけれど、みんなはどうやらうまくこなしてくれたみたいだ。残存勢力がぱっと目には不安だけれど、大丈夫、この春も次の秋も新会員が入ってくるから……あ、いや、きっと入ってくると思うから。今の会員たちもバイタリティがあるから、きっちりサークルを引っ張っていってくれるだろう。
 長いことここにいて、この5年くらいはとっても楽しかった。所帯も増えたし、みんなが幸せに思うことがたくさんあった。僕はそれがあるから、ここにずっといたんだろう。
 もうそろそろいいかな、とも思う。当分このサークルは安泰だし、なに、僕が必要になったらそのときにまた来ればいい。
 せっかくだから、最後の記念写真くらいは参加しようかな。みんなに気づかれないように、どこかフレームの隅っこにでも。
 ぽかぽかと眠気を誘う風が僕の体を通り抜ける。ああ、今日は本当にいい日だ。
 みんなの顔を一人一人思い出しながら、ひと呼吸。



 みんなに聞こえるかな?卒業、おめでとう。






【あとがきなど】
2006/06/29、完成。

ずいぶん以前に完成してましたが投下のタイミングを逸し、今般ようやくブログ収録となりました。
ご覧のとおりストーリーは特にない作品です。卒業式の朝、げんしけんメンバーたちはどんなことを思いながら過ごしていたのだろうかと考えながら、ちょっと気が向いて各人一人称形式で書いてみた作品です。SSスレにも『BLUE MONDAY』という作品があり、参考にさせていただきました。
まあ簡単に言うと叙情重視で書いたんでSSスレに投下しあぐねてしまったわけです。唯一のチャンスは「単行本最終巻が出るとき」だったんですが、みなさまご存知のサプライズ『書き下ろし過多につき最終巻発売延期』のおかげでこれも潰えてしまいましたw

なお、初代会長はギリギリ人間であると解釈しております。

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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
拝読しました〜。
それぞれの声が聞こえます。こういうのいいですね。
お気に入りの台詞は斑目の「どっちでもいいや。きっとどっちも、俺の選んだ道だ。」
それから、最後の3人が雰囲気をぐっと楽しくしてる気がします。
私が一番シンパシーを感じるのは、実は最後の方wwwなんですが。
でき
2006/10/28 15:45
ご感想ありがとうございます〜。間の悪い創造主のおかげで冷や飯ぐらいだったこのSSも浮かばれますw
最後の3人ははじめの8人書いたあとで追加したものですが、僕の中ではクッチーちょっと気に入っております。
synth
2006/10/29 06:47

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ブレス 〜2006年3月25日〜 Orgy way/BIGLOBEウェブリブログ
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