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zoom RSS 太陽 〜2006年3月14日〜

<<   作成日時 : 2006/03/14 00:00   >>

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 街に買い物に行こう、と笹原完士が恋人の荻上千佳を連れ出したのは3月14日のことだった。地下道の出入り口から続いているデパートの洋菓子売り場には、ホワイトデーのポスターが所狭しと並んでいる。平日の昼間だというのに、サラリーマンらしい男性の行列がそこら中に見られる。
 笹原も今日はスーツ姿だ。朝、千佳を迎えに来た彼は、徹夜明けだと言っていた。
 卒業を月末に控えた笹原はここのところ、春からのはずの勤務先に頻繁に顔を出していた。秋には研修名目だったが、今はもう普通に勤務しているようなものだ。まだ担当があるわけではないが、先輩社員の本部フォロー係のような仕事を会社でやっている、と千佳に説明した。
「今月の俺の出番がようやく終わったってトコ。あとは見習いの俺には手の届かない仕事だからね、半月ゆっくり休んで4月からコキ使うって言われて解放されたよ」
「えー、大変ですね」
「でもまあ、この何ヶ月かで仕事覚えられたし、一応アルバイト待遇で給料も出たんだよ。おかげで今ちょっとリッチな気分」
「卒論とお仕事でお金使う時間なかったですもんね」
「でね、荻上さん」
「?」
 並んで歩きながら、笹原は千佳に顔を向けた。
「今から荻上さんにホワイトデーのプレゼント、買おうと思って」
「え……?だってプレゼントなら、さっき」
 朝、千佳の家に現れた笹原はケーキとスパークリングワインを両手に持っていた。今夜は千佳に手料理をご馳走してもらう約束で、その演出として彼が買ってきたのだ。
「あれはカモフラージュ。荻上さん遠慮しそうだったからさ」
「するに決まってるじゃないですか!やめてくださいよ、そんなの」
「バレンタインのときはチョコ作ってもらったし、今日だってゴチになるんじゃバランスとれてないよ。本当は俺だけで選ぼうと思ったんだけど時間なかったし、一緒に買い物のほうが楽しいと思ったんだ」
「でも!私になんて、いりませんからね、ホントに」
「まーまー。せっかくここまできたんだし、じゃあとにかく見るだけ見てみるって事でどーすか」
「……見るだけですからね」
 デパートの1階に上がっても、混雑は相変わらずだった。ジュエリーショップや化粧品店がひしめくフロアで、笹原は千佳と店を遠巻きに眺めながら歩いた。
「荻上さん、イヤリングとかしないの?」
「買ったことないですねー。なんか簡単になくしそうじゃないですか」
「ネックレスとかは?」
「いくつか持ってますよ。でも、つける機会なくて」
「恵子なんかいっつもチャラチャラやってるよ?普段つけるもんなんじゃないの?」
「うーん、どんな時につければいいのかわかんないすよ」
 3軒目のショップでは、人だかりに隙間を見つけた。笹原はショーケースに近づき、千佳にネックレスを指差す。
「おー、きれいじゃないコレ」
「いらっしゃいませ。お試しになりますか?」
 若い女店員が目ざとく彼らを見つけ、近寄ってくる。
「どう?つけてみれば」
「えー、でも」
「ほらこれなんかさ、荻上さんに似合うんじゃない?」
 笹原の動きを目で追っていた店員が、今の言葉にはっとする。二人の間に割り込むように体を回転させ、千佳の顔をまじまじと見つめた。
「……オギウエ……さん?」
「え?」
 店員の意外な動きに、千佳も彼女の顔を見る。彼女は千佳の顔に何かを確認すると、ぱっと微笑んだ。
「わ、やだホントに荻上だ!あたし判る?高校ん時の緒方〜!」
にこにこと笑いながら自分の顔を指差す。千佳もまたその人物に思い当たった。
「えええ!オガタなの?なんでこんなトコにいんだ?」
「おめ変わったなー、全然わかんねかった!何年だ、2年?2年でコレかー?」
「オガタこそー!お前その体どしたんだよお」
 なんと、店員は千佳の同級生だと言うではないか。千佳も、彼女に笑いかける。
 笹原はと言えば、その光景を内心ひやひやして見ていた。中学のときのいきさつがあってから、千佳は地元でも友人をほとんど作らなかったと言っていた。現に去年の夏には、当時を知っているらしい同級生の登場にあれほど疲弊していたではないか。いま目の前で展開している会話は、虚か実か。
 笹原の不安げな視線を感じたのか、千佳が振り向いた。
「あ、笹原さん、大丈夫です。こいつ緒方和美って言って、私の悪友ですから」
「悪友って言わないでよ。申し訳ございませんお客様、懐かしい名前が聞こえたものですからつい」
「うっわ気持ちわりい、標準語なんか使ってえ」
「お客様、店内ではお静かに願えませんでしょうか?おほほほ」
 安心した。千佳と緒方という女性との会話を聞いて、笹原は胸をなでおろした。
 彼女の高校時代は、笹原が心配していたほど暗澹としていたわけではなかったようだ。過去をほとんど明かさない千佳にいつも不安を覚えていた笹原は、彼女をからかって明るく笑うこの女性の登場に思わず頬を緩ませていた。

****

「ごめんなさあい、デート中だったんですよね?あたしお邪魔だわー」
 デパートのならびにある喫茶店に、三人は座っていた。あれから10分後のことだ。店内には、同じように休憩に入ったらしい他の店員がちらほら見える。
「いっいやいや、いいんですよ、俺たちこそ、この時間がお昼休みなんでしょ?それじゃどっかでごはん……」
「あ、気にしないでくださいよお。実はあたし、今1日2食でお昼食べてないんです」
「オガタ!あんたまたそんな生活して」
「なに言う。おかげで今やこのプロポーションだぞ、実績を見て言え実績を」
「う」
 千佳に向かって色っぽく体をくねらす。千佳が何をそこまで怒っているのかは判らないが、確かに緒方は標準以上の体型の持ち主だ。大野加奈子やアンジェラを思わせるグラマラスな体型を見ていると、スレンダーな千佳はまるで少年のように見える。
「笹原さん、いまオガタのことやらしい目で見てましたね」
「いっ……?いやいや、そんなことは……」
「笹原さんは知らないでしょうけどこの子、昔は体重が私の倍もあってあだ名は『オーガタ』だったんですから。ったく、いったいどんなまやかしでこんなことになってるんだか」
「人を詐欺師みたいに言うな。たゆまぬ努力と惜しみない愛の成果なのよ」
「なあにが愛だよ」
「うふん」
 彼女は千佳の言葉を受け、にっこりと笑った。
「あたし、結婚したんだよ、荻上」
「……え?」
 千佳の舌鋒が止まった。相当意外だったようだ。高校の同級生が二十歳そこそこで結婚していると知らされたのだ。笹原にしても驚きを隠せない。
「……だって、年賀状」
 正月には、千佳は緒方から年賀状を貰っていた。大学の知り合いと家族を除けば両手にも満たない友人からの手紙だ。かわいらしい手描きのイラストが入ったカードには、彼女の結婚を思わせるような文面はまったくなかったのに。住所だって昔のままだったのに。
「正月早々親と大ゲンカしちゃってさー。東京来たのは1月、入籍したのは先月。式も挙げてないし、まだ誰にも話してないよ、荻上が最初」
 おだやかでない。要するに勘当同然で結婚したという話ではないか。緒方はそれでも翳ひとつない笑顔を千佳に向ける。
「彼がね、あ、日本橋の店で働いてんだけど、昇格試験にパスしたのよ。発端はそこからなわけ」
 こういうことだった。高校を卒業した後、郷里の宝飾店に就職した彼女はそこの店長と恋愛関係になった。恋人は社内の資格上、転勤することのない職位におり、緒方の両親は娘が地元で結婚し、暮らしてゆくものとこの恋を祝福してくれていた。ところが彼の希望部署は海外での宝石の買い付けで、年末の社内試験で見事その資格を手に入れたのだ。早速そのステップとして、都心の大型店舗への転勤が示された。
 恋人とともに歩みだそうとする彼の前に立ちはだかったのは、当の恋人の両親だった。娘を手元から手放したくないと、彼に有形無形のプレッシャーをかけた。そして、この呪縛を断ち切る決意をしたのが緒方本人だったというわけだ。
「あたしは彼とどこまでも一緒に行きたかったのね。だから、彼をとった。父さんや母さんには悪いことしたけど……、いつか解ってもらえるんじゃないかって思ってる。それが明日なのか、10年後なのかは判らないけど。それにそのときあたしたちはコロンビアとか、南アフリカにいるのかも知れない。でも、その『いつか』はきっと来るって思ってるんだ」
 ふふ、と笑う。
「だから、結婚しちゃった」
「あんたって人はぁ」
 千佳は吃驚した顔になんとか笑みを貼り付け、ともかく彼女を祝福することにしたようだ。
 説明は簡潔だったが、その決意に至るには深い苦悩があったに違いないのに、こうして緒方はあっけらかんと笑っている。……思い出せば、高校の頃もこうだった。普段はおどおどと自信なさげにいる緒方だったが、なにか嬉しいことがあったりして笑う時の彼女は、まるで太陽のようだと千佳は思ったものだった。
 笹原も二人を見ながら、別の感慨に何も喋れずにいた。
 この人の笑顔は荻上さんや俺じゃなく、愛する人を想って出てくる笑顔だ。決して平和ではない話題に俺たちを安心させようというのではなく、自分の大好きな人を想うだけで浮かび上がってくる喜びの表情なのだ。こんな笑顔を、俺もできているだろうか。荻上さんは俺を想って、こんな風に笑ってくれるだろうか。
「……すげえな、オガタは」
 すこしの間の後、千佳は言った。
「私には想像もできね。高校ん時のあんたからも考えらんね。あんた、すっごく成長したんだな……頑張んなよオガタ、私、何もできねえけど応援すっからさ」
「ありがとね。いつか彼が独立したらこーんなでっかいダイヤモンド、プレゼントすっから」
「大ボラはいらねえよ」
「あはは……でも。あんたもさ」
 笑う千佳に、緒方は優しい視線を向けた。
「いい顔してるじゃない。笹原……さんだっけ?のおかげなワケ?」
「……ん」
「高校んときにさ、荻上そんな顔したことなかったよね。いつも怒ってたみたいだった」
「緒方だっていつもおっかなびっくりって感じだったじゃねか」
「あんときのクラスメートたちに見せてやりてえよ。あの荻上と、この緒方がこんなに幸せになってんぞって。おめーらダラダラ大学行って遊んでるだけなんじゃねーかって」
「いやいや。私も大学行ってっし」
「まあいいか。荻上、話できてうれしかった。正直、東京に友達ひとりもいなくてさびしかったんだよね。……ところで、笹原さん?」
「はい?」
「あたし考えてたんですけど……荻上にプレゼント買いに来てたんですよね?」
 緒方の目が光った。

****

 彼女の昼休みが終わると同時に、笹原と千佳はさっきの売り場にいた。旧交を温めた上に顧客まで獲得するとは、緒方は大した腕前の持ち主だ。
「こっから人の目があるからね、他人行儀で申し訳ないけどセールストークで行くわよ。まあ悪いようにはしないから安心してらっしゃい」
「はあ」
 なかば脅し文句のような台詞回しではあったが、てきぱきと商品を選ぶ彼女の手に迷いはない。柔毛のトレーに3つ持ってきたネックレスは、どれも二連の細いチェーンだった。
「えー、奥様はお体つきが華奢でらっしゃいますから」
「おく……っ!?」
「しっ、気にすんな。首の周りにほんの少しボリュームを加えたほうが肌が映えるんですよ。細いチェーンは最近の流行ですし、チャームを変えればフォーマルもカジュアルも幅広くお使いになれます。今は髪をアップにされてますから、こうやってシンプルなイメージで」
 節回しこそないが、まるで歌うように説明を続ける。この仕事が性に合っているのだろう。実に生き生きとしている。
「あとはこのようなヘッドをつければ……荻上ちょっとごめんね」
 片手にネックレスを持ったまま、緒方は千佳の髪ゴムを引っ張った。まるで生きているようにゴムは彼女の手の中に移動し、千佳の髪は流れるように頬にかかった。
「あっこら、何すんだ」
 急な出来事に頭を押さえ、緒方に抗議する。
「いーから。なんだよ荻上ホントかわいいなー」
 振り向いた千佳を壁の鏡に向き直らせ、後ろからペンダントヘッドを取り付けたチェーンを当ててみせる。
 コートを笹原に預けた千佳の服装は、好んで着ている襟なしのシャツだ。細い銀のチェーンと薄く丸い金のペンダントが、千佳の白い肌に踊った。緒方は自分の後ろで立ちすくんでいる、旧友の彼氏を振り返った。
「いかがですか、笹原様?」
「あ……うん……。い、いいんじゃないか、な」
 笹原は我に返って、呼吸を整えながらそう応じた。有無を言わせぬ、圧倒的な魅力。装飾品が、ではない。千佳の魅力だ。緒方に呼びかけられるまで、彼は千佳に見とれていたのだ。
 彼女はほんの一瞬で、千佳の中の魅力の糸を編み上げたのだ。ネックレスは言わば編み針に過ぎない。ただ置いてあれば金属の塊で終わるものが、適切な場に出会うことでこんなにも人を美しくさせる。
「……うん、そうだね。それをいただきます」
「えっ?ちょ、ちょっと笹原さんっ」
 値段も見ないで?と言いかけたが、笹原は笑顔でそれを制した。値段なんか関係ないんだ。いいものはいいんだよ。
「ありがとう。大切な人に、素敵なプレゼントを贈れます」
 笹原は緒方に礼を言う。彼女も笹原に笑い返した。
「いいえ、お役に立てて光栄ですわ」
 同僚にラッピングを頼み、代わりに伝票と電卓を取り出す。
「でね笹原さん。お会計が」
「……うっ。え、こっちが鎖だけで……これがあの丸いの?」
「上質のプラチナと24金なんですよぉ。でもね、今回はこれを……こうで……」
「えっ、そんなに?……なんかすいません」
「新規顧客が夫婦ものだとね、なんだかんだでこのくらいへっちゃらなのよ。あ、でもダイレクトメール色々届くから目くらい通してね」
「はあ」
 目を白黒させながら支払を済ませる。数メートル離れてハラハラしながら見守る千佳に、笹原はやっとの思いで笑顔を返した。

****

 かわいらしく包装された商品を受け取った笹原は、すぐにそれを千佳に渡した。
「はい。バレンタインにはどうもありがとうございました」
「……いえ」
 1ヶ月前のことを思い出し、赤くなりながらプレゼントを受け取る。先月、加奈子にそそのかされた千佳は、同じく先輩の春日部咲も装着した伝説の『ネコミミカチューシャ』をつけて笹原を出迎え、彼を大いに楽しませていたのだ。
「俺もネコミミつけたほうがよかったかにゃ?」
「バカ」
「お客様〜?ストロベリートークはお帰りになってからでお願いしますわ〜」
 緒方が言う。千佳は笹原のすねを蹴り上げた。

****

「緒方さん、ありがとう。お金ホントにあれでよかったの?」
「笹原様、知らないほうがいい真実もございますのよ」
「はいはい。あ、それから」
「はい?」
「荻上さんといい友達でいてくれてたんだね、ありがとう。値引きも助かったけど、そのことのほうに実はお礼を言いたかった」
「……笹原さん、それはお互い様だったんです。荻上、高校のことなんにも話してないんでしょ?」
 言いながら見回す。髪を直しに行った千佳はまだ帰ってこない。
「高校に入学したとき、出席番号のいっこ後ろがあの子だったから、あたしはたぶん今ここにいるんだと思うな。……それに、自惚れかも知んねけど、あの子もたぶん同じことを思ってる。いつか、あの子が自分で言うと思うよ、笹原さんに」
「うん。またここに買い物に来ていいかな?」
「お待ちしておりますわ〜。日本にいる間はたっぷりサービスさせていただきますからね、笹原様」
 千佳が戻ってきた。笹原は千佳に、できるだけ多くの思いが伝わるようにと手を振った。

****

 デパートを後にして、二人は帰途についた。朝持ち込んだワインも、いい具合に冷えている頃だろう。
「……緒方って、ちょっと春日部先輩に似てませんでしたか?」
 千佳が笹原に聞く。
「あ、俺も思った。あの押しの強いところとか。俺もう観念してたもん、あー俺ここで買うんだなって。……結果的にはいい買い物できたけどね」
「あの子、前はもっと引っ込み思案で、おとなしい子だったんです。ちょっと会わないと変わるもんですね、人間って」
「彼女も似たようなこと言ってたじゃない、荻上さんに」
「私……、緒方みたいにはなれないです」
 うつむいて言う。笹原は千佳の前に回りこみ、その顔を覗き込む。
「荻上さんは、緒方さんじゃないじゃない」
「……」
「ね、さっきのネックレス、してみてよ」
 千佳はおずおずとバッグからネックレスをとりだし、首にかけた。二つの金色の雫が胸元で光る。
「髪の毛、おろしてもらってもいい?」
 笹原に言われるままに、まとめた髪を再び解き放つ。本人はゴワゴワしていやだと言い張る黒髪が、夕日に光りながら揺れる。
 恥ずかしくて、笹原の顔をまともに見ることができない。こわばった顔で横を向いていると、彼は髪をそっとなでた。
「髪下ろしてるほうが可愛いよ、荻上さん」
「……なに言ってるんですか、もう」
「卒業式の日さ、それつけてきてほしいな。髪もその感じで」
「やですよ、恥ずかしい」
「えー」
「やですっ!」
 下を向いたままずんずんと歩き出す。笹原が追いすがる。
「……あーところでさ」
「何ですかっ!」
 頬を膨らまして答える。
「緒方さんて結婚したわけじゃない。新しい苗字とか住所とか、聞いてたっけ?荻上さん」
「……あ」
「さっき気づいたんだよ。そのこと」
 どうかしている。話すチャンスはたくさんあったのに。
「どーしよう……や、まあ、まだあのお店にいるわけだし」
「それでね、ほらコレ」
 笹原は財布から紙切れを取り出した。さっきのショップのレシートだ。
「あ、そっか。会計は緒方だったから」
「うん、さしあたり今の苗字ならたぶんどっかに……んん?」
 先にレシートを覗き込んだ笹原の動きが止まる。レシートを持つ手に、千佳も手をかけて覗き込む。
 人名と思しき単語は感熱紙の右上に、ひとつだけ印刷されていた。『レジ:大潟和美』とある。
「……『オーガタ』?」
「『オーガタ』……だよね……」
 思わず笹原の顔を見る。人の友達のことを、笑っていいもんだか悩んでいる彼と目が合った。
「……っぶ」
「ぷふっ」
 こらえることができたのは一瞬だった。のどの奥から笑い声が漏れてくる。
「オ……オガタが……ホントにオーガタに……」
 夕暮れの繁華街に、二人の笑い声が響いた。周囲の人が何事かと振り返るが、もう我慢できなかった。
 千佳は足に力が入らず、思わず笹原にしがみつく。笹原も同じような状況らしく、二人で相撲でもとっているようだ。笑いながら千佳は、幸せそうな緒方の顔を思い出す。最後の最後にこんなオチまで用意してくれるとは。ああ、あいつはやっぱ、いい友達なんだなあ。
 千佳は思った。私はずっと、あいつと友達でいよう。
 あいつが地球の裏側に行ったってかまわない。明日も、10年後も、私はあいつの友達でいよう。一番好きな人のために、他の大事なもんを全部置いてきた緒方の、私は友達でいてあげたい。
 何年か経って、またどこかで不意に巡りあえたら、互いにそれまでのことを報告しあおう。それがどんな話でも、私は笑って聞いて、笑って話して、また笑い合おう。
 顔を上げると正面に、地面にだいぶ近づいた大きな太陽があった。にこにこと笑う彼女の顔がだぶる。
「さ、……笹原さん」
 腹を押さえながら話しかける。笹原も顔が元に戻らない。
「な、なに?荻上さん」
「あした私、緒方から住所とか聞き出して、あの子の結婚祝いを選びに行こうと思うんです」
「うん」
「それで……もし良かったら、一緒に来てくれますか?」
「もちろんだよ。俺も一口乗せてもらっていいかな」
「はい!ありがとうございます」
 ようやく呼吸を整え、胸で弾むネックレスを手に取る。緒方が選んでくれた、笹原さんが買ってくれたプレゼント。
 夕陽を反射してきらきら光るペンダントに、二人分の想いが映り込んでいるような気がして嬉しくなる。
「じゃ……帰りましょうか。今日はシチュー仕込んであるんですよ」
「おー。楽しみ」
 笹原の左手に、自分の腕を絡める。笹原も腕を引き寄せ、夕陽に長く伸びる二人の影が寄り添った。
「笹原さん……緒方、幸せだといいですね」
「幸せに決まってるでしょ。じゃなきゃあんな笑顔、出せませんよ」
「そうか、そうですよね。そう思います」
 太陽の赤い光に包まれながら、二人は駅への道を歩いていった。




【次の日のこと。】
「それで荻上さん、大潟さんになに贈ろう?」
「んー、使い勝手いいとなると、食器とかですかね」
「なにか大型のものを?」
「あははは!やめてください笹原さん、私おなかがっ」





【あとがきなど】
2006/10/26、完成。

SSスレには投下してません。理由は既存作品『チェーン』のパラレルストーリーであることと、オリジナルキャラクターを重要な脇キャラとして配していること。
『チェーン』のパラレルっつーのは読んでてお判りの通り、同一日のお話でしかもクライマックスシーンの一部がまったく一緒です。正確にはこちらを先に書き始めて、あとから『チェーン』のプロットが降りてきて脳内コンペで本作が負けちゃったという。件のカットは本作で先に書いたものですが、自分的に気に入っていたので流用。
脇キャラ「オガタ」さんの創造については、ブランク前の僕の作風ではけっこう便利な手法として考えナシに使ってたんですが、SSスレの流れやげんしけんSSとしての執筆スタイルにはあまりフィットしませんでした。まあ、自分としては存在感のあるキャラ設定できた(描写できてるかどうかは別orz)のでオッケー。
読み返してみるとリハビリ中まるわかりで、笹視点と荻視点がどんどん入れ替わったり事前描写なしで他人のSSからストーリー引き継いだり、オリキャラのオリジナル境遇ベースで話が進んでるし出来は正直ビミョーですな我ながら。

とはいえ可愛い我が子であるのも事実で、今般ふと完成に至りましたのでブログ収録。
お目汚し失礼しました〜。

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