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zoom RSS 『モシモシ』 〜2005年9月のはじめ〜

<<   作成日時 : 2005/09/06 00:00   >>

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『さ、笹原には連絡しといたよ。き、聞いたとおりだな、すげえヘコんでた』
『ありがとうございます久我山先輩。余計なお願い事……』
『いいって。実は荻上さんのすぐあと、本人からも留守電あったんだよ、れ、連絡欲しいって』
『え?……ああ、そういえば同人誌のこと』
『う、うん。田中に確認した。いいな、金髪キャラ』
『よくねッスよ、あんなの!』
『うわ、ほんとに嫌ってんだな』
『うえっ?あ、田中さんが言ったんですか。いやその、嫌ってるわけでは――』
『う、うはは。……楽しそうだな、現視研。相変わらず』
 あいまいな笑いでごまかしたが、実は一人だけ楽しそうでない人物がいる……それがこの電話に繋がっているのだ。
 事情をよく知らない久我山先輩に心配をかけるわけにはいかず、まあそうですね、と相槌を打つ。
『荻上さんにはオレもか、感謝してるんだぜ』
『へっ?』
 急な話題の転換に面食らう。
『荻上さんから電話もらうまで、田中以外の奴と話してなかったんだ、大学ん時の仲間』
 先輩が卒業して半年。新入社員の忙しさもあったろう、と思った。
『こないだ話しただろ?マンガ、またこっそり描き始めたの誰にも言えなかったからさ、笹原に言ったら笑われた』
『そ、それは……すいません』
『なんで荻上さんがあやまるんだよ?』
『え……いや、なんとなく』
『ふ、ふははは。まあいいや、他のみんなにもよろしく』
『はい。おやすみなさい』

 ……そんな会話をしたのが1週間前。
 私は今、シャワーを浴びながら先日のことを思い出していた。

 笹原さんは翌日から、目に見えて元気を取り戻した。もちろん、私がなにかしたなどとは思わない。あの電話にしたって、現視研の会員として、会長が自暴自棄になっているのを見ていられなかったからだ。
 部室で会話をすることはほとんどない。
 毎日一度は顔を出すが、笹原さんはいつも資料調べや履歴書書きをしていて、ちょっとこちらから話し掛けられる雰囲気ではない。しかも、いつでも在室している朽木先輩が『合宿、合宿』と呪文のように繰り返していて、笹原先輩は一区切りつくと部屋を出ていってしまうのだ。
 でもその代わり、メールや電話で連絡を取り合うようになった。忙しい笹原さんに代わって、大野先輩と私が自治会関係の仕事を分担しているのだ。……大野先輩もなんだかんだ言って仕事を私に振るので、結果的に、仕方なく、私が笹原さんと連絡を取らなければならない。
 もちろん報告事項だけで電話を切るのは失礼だから、一言二言は世間話もしている。他に話題もないので、漫画やアニメの話ばかりだし、その延長で就職活動の進捗を尋ねたりもする。笹原さんがまたターゲットを出版に絞ったのが判って嬉し……か、会員としても安心した。
 さすがに広くない出版業界、そろそろ求人も種が尽きてきたと言っていたのが不安だったが、先日ひとつ面接をこなしたと聞いた。
 鷲田社という、出版社に編集者を派遣する会社だという。そんな業種があるとは思わなかった。
 一次面接が社長で、おとといの午後受けた二次面接が編集者の一人。夏コミで『どうせなら採否は現場の人間に』と言っていた笹原さんの希望が奇しくも叶ったことになる。その晩、笹原さんから電話があった。
『荻上さん荻上さん、俺ね、黒木優の編集者に面接されちゃいましたよ』
『へ?……えっと、巷談社、また行ったんスか?』
『じゃなくてね、昨日話した鷲田社。ゆうべ遅く一次通過って連絡来てさ、今日行ったら面接担当者がマガヅンやってる人で』
『ええっ?え、そんなに大きな会社だったんですか?』
『いや……ちっちゃい、ん、だけど』
『はァ?』
 笹原さんの説明を納得するのにしばらくかかった。この日の面接は彼一人で、思い返してみると面接時間の大半をくじアンの話で過ごしたと言う。少し前に聞いた他社の面接レポと様子が違ったので、訊ねてみた。
『笹原さんあの、それで、前言ってた自己アピールとかそういうの、今回はやらなかったんですか?』
『……あ』
『え』
『ああぁぁあああ〜!』
『さっ、笹原さん?』
 さらにしばらく時間をかけ、笹原さんを慰めて。ただ、密度も濃く充実した面談であったらしいことと、面接官も笹原さんも会話内容に熱を持って打ち込んでいたということは私にも伝わった。
 進展あったらまた連絡しますね、と彼が電話を切った後も、私は受話器をしばらくもてあそんでいたのを憶えている。

「……ふう」
 熱めの水流のなかで、そっと息をつく。
 最近は、笹原さんのことを考える時間が多くなったように感じる。ま……まったく、世話の焼ける会長だっ。
 ふとした瞬間にあの柔らかな笑顔が脳裏をよぎるようになったのはいつからだろう。『いろはごっこ』を作っていた時?笹×斑妄想に目覚めた頃?斑目さんたちの卒業?夏コミに受かって、コスプレを見られた時?
 ……私の本が初めて売れた時の、あの笑顔を見た時?
 朝と言わず夜と言わず、不意に飛び込んでくる笹原さんの笑顔。退屈な講義の合間、原稿のペン入れが一段落した隙、休日に池袋まで出る電車の車中。早朝、至近距離に迫る笹原さんにたじろいで目覚めた時はさすがに頬の熱さがしばらくとれなかった。
 私は笹原さんを……そっ、尊敬、している。始まりはもちろん、同人誌を作った時だ。原口先輩を撃退した時ばかりはこれぞ会長と内心絶賛した。その後しばらく春日部先輩にセクハラ受けてたのはカッコ悪かったけど。ふふっ。
 原稿が進まなくて久我山さんと衝突したのも、今にしてみればそれぞれの熱意の行き違いだったと思っている。『代わりに自分が描こうか』などと口出ししたのは、よく考えれば笹原さんにも久我山先輩にも失礼だった。
 先日の夏コミでも、過去の亡霊が現れたりガイジン娘に翻弄されたり散々だったが、笹原さんはひとつひとつ私を支えてくれていた。結局あの人が横にいてくれなかったら、たぶん私は途中退場したりスーに気まずい思いをさせていただろう。
 だからその笹原さんが心を折りそうになっていた時、今度は私がなにかしてあげたかったのだ。
 普段自分からかけることなどない携帯電話を取り、久我山先輩に就職の時の苦労話を聞いた。こちらの近況報告に重ねて『実は笹原さんがちょっと苦戦してまして』と振ってみたら、様子を聞いてみようと快諾してくれた。
 先輩も同人誌の件で笹原さんを内心見直していたのだと聞き、嬉しくなった。
 数日たち、笹原さんの様子が変わったのが判り、もっと嬉しくなった。
 おとといの電話では久しぶりに、笹原さんの高揚した口調を聞いた気がする。
 あとは、笹原さんの就職活動が無事終わりを告げるのが待ち遠しい。そうしたら私は、笹原さんに……あれ?
 いやいや、そうでねくてッ。
 さっ、笹原さんが落ち着いて大学生活の最後を送れるように。そう、そのために、私は彼が就職に成功するよう祈っているのだ。
 体と髪を洗い、泡を流す。だいぶ長風呂になってしまった。こんなことなら浴槽に湯を張って温まればよかった。
 そろそろ上がる頃合かと考えながら、ぼんやりシャワーに打たれるまま考える。
 笹原さん。
 笹原さん。
 笹原さんは、私みたいなトラウマ女、嫌ェだよな。
 いや……そうでねく。嫌いとか好きとか、そういうのじゃなく。
 でも。
 でも……。
 堂々巡りが3周ほどしたころ、気づいた……電話、鳴ってる?

 脳裏に浮かんだのは、笹原さんの顔。

 体を拭く時間すら惜しい。そのまま飛び出して、受話器を手にとる。
「……っ」
 モシモシ、という言葉が出なかった。私の声じゃなく、まず最初に笹原さんの声を聞きたかった。
 息を止めて、待つ。
 永遠に思える一瞬が過ぎ、受話器からは聞きなれたあの声。
「あ、荻上さんのお宅でしょうか、笹原です……」
 きっと、嬉しい報告だ。そう直感した。これできっと。
 きっと、また。
 きっとまた、明日からはいつもの現視研の日々が始まるのだ。

 ……いや。
 きっとそれは、いつもより、これまでより、私が少しだけ……。

 私は、笹原さんの声が予想通りの言葉をつむいでいくのを、じっと聞くのだった。





おわり




【あとがきなど】20080122、SSスレに投下。
4ヶ月放置orz ←ここに書いても判りませんが前作投下から大放置してましたすいませんすいません。
復活を期すべくリハビリ作品でございます。アニメ2期最終回を観ての話。
今日は時間ないのでこんなもん。近日中にもちょっと書きます。



<追記>
げんしけん2、大胆な構成でしたねえ。ムリヤリ詰め込んでラスト3話で温暖化、と当初は予想してたんですが、風呂敷広げといてその手前で終えるという生殺し展開。夏コミの茶髪女は誰?一発キャラで終えるにはあまりにも惜しい漫研女子3人組はなに?クッチーの言ってる合宿はただ彼がホントに空気読めないだけ?と、ワクテカせざるをえない摘み残しが満載です。これで3期とかOVA展開とか映画化wとかなかったら暴動が起きる!5月5日に!!きっと!!!

……ないわw

さて肝心のあとがき。
そのアニメ2期の最終回、サービスカットのオンパレードでした。そのなかでも圧巻はオギーのシャワー電話のシーンで、あちこちの絵師さまが『俺ならこう描写する!』とばかりにこのシーンをうpしまくってたのが印象的でした。そんなに精力的に各サイト回ってない僕でも5人以上は描いてた気がします。
んで、『そんなん文字書きだって描写したいんだいっ!』っていうお話でした。

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